野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

内大臣(ないだいじん)様がご退出なさると、大宮(おおみや)様は姫君(ひめぎみ)にお手紙をお書きになった。
「あなたの父君(ちちぎみ)にはすっかり(にく)まれてしまいましたが、あなたは私のことをまだ愛してくれていますか。夕方には父君のお屋敷に移ることになりますから、その前にこちらへいらっしゃい」

姫君は美しく()支度(じたく)してお越しになる。
十四歳だから、もう大人として扱われるお年だけれど、まだ少女らしいおっとりしたところがおありになる。
「あなたをかわいがることが私の生きがいだったのに、父君のところへ行ってしまわれるなんて悲しいこと。あなたのご将来が心配ですが、私の年を考えると、見届けてあげることはできないでしょうね。これからあなたがどのようになっていかれるのかと思うとお気の毒で」
とお泣きになる。

若君(わかぎみ)とのことが父君に知られてしまったせいだ>
とお思いになると、姫君は恥ずかしくてお顔も上げられない。
ただしくしくと泣いていらっしゃる。
若君の乳母(めのと)がおふたりのところへ出てきた。
小声で姫君に申し上げる。
「私は姫君にもお仕えしているつもりでおりました。行ってしまわれるのが残念でございます。もし父君が他の方と結婚させようとなさいましても、どうか従われませんように」

大宮様のお耳にも届いて、乳母をご注意なさる。
「姫に難しいことを申し上げるでない。運命など、思いどおりに決められるものではないのだから」
乳母は内大臣(ないだいじん)様のなさり方に腹を立てていたから、恐れ多くも大宮様にご意見するの。
「いいえ、内大臣様は若君を()(くだ)しておいでなのです。たしかに今は六位(ろくい)で、貴族とも言えないご身分でいらっしゃいますが、若君ご自身をよくご覧くださいませ。お人柄(ひとがら)も学問の才能も、これ以上の方はいらっしゃいませんでしょう。どなたにお聞きになってもそうおっしゃるはずでございます」
とはっきりと申し上げる。