二日ほどして、内大臣様はまた大宮様のところへいらっしゃった。
内大臣様のお怒りをご存じない大宮様は、素直によろこんでいらっしゃる。
ご自分のお子といえども内大臣様はご立派な方なので、念入りにお支度なさって出ていらっしゃった。
でも内大臣様はご機嫌がお悪い。
「ここにおりましても女房たちの目が気になってしまいます。さぞや私のことを馬鹿にしているだろうと思われましてね。頼りない私ですが、母君のことをご尊敬もご信頼もして、力の限りお仕えしようと思っていたのでございます。それが、浅はかな娘のせいで母君をお恨み申し上げることになりますとは。お恨みなどしてはならぬと思う一方で、どうしても我慢できずに参った次第でございます」
とお泣きになるので、大宮様はびっくりして目を見開かれる。
「いったいどういうことですか。こんな年寄りにそのような悲しいことをおっしゃって」
内大臣様もさすがに母君をお気の毒に思われるけれど、言いたいことははっきりとおっしゃる。
「母君にお預けしていれば安心だと思って、姫のことを放っておいてしまった私が悪いのかもしれません。弘徽殿の女御様が内裏でご苦労をなさっていましたから、そちらばかり気にしていたのです。それでも母君なら一人前の女性にお育てくださるだろうと信じておりましたが、こちらのお屋敷で思いがけないことが起こっていたようです」
大宮様が何のお話だかつかめずにいらっしゃると、内大臣様がお続けになる。
「たしかに源氏の君の若君はご立派な方ですが、いとこ同士の結婚はあまりに手抜きだと世間から思われましょう。若君にとっても損でございます。親戚関係のない家の婿になって、めずらしがって世話をされるのが理想なのですから。源氏の君だって納得なさらないはずですよ。母君がどうしてもふたりを結婚させたいとお思いなのでしたら、そうおっしゃってくださればよろしかったのです。きちんと改まった縁組として、私の方で世間体を整えることもできましたのに、幼い子どもたちの惹かれ合うままにしておかれたのは残念でございます」
大宮様は夢にも思わなかったことで驚かれて、
「何も知りませんでした。それが本当なら私だって残念ですから、私のせいと思われてはつろうございますよ。姫の母親が他の男性と再婚して、幼い姫を私がお預かりすることになったときから、姫のためにあらゆることをしてあげようと努力してきたのです。まだほんの子どもだというのに、ふたりを結婚させたいなどと思ってはおりません。しかし、誰からお聞きになった話ですか。ふたりがそのような関係だとは私には信じられないのです。間違った噂に振り回されては、姫に傷をつけることになりましょう」
とおっしゃる。
「間違った噂などではございません。ここにいる女房たちも知っていて、陰で笑っていたのですよ。悲しくてなりません」
とお答えになって、ご退出なさる。
こそこそ話を内大臣様に聞かれてしまった老女房たちは、ついたての後ろでちぢこまっている。
<どうしてあんな話をしてしまったのか>
と後悔していたわ。
内大臣様のお怒りをご存じない大宮様は、素直によろこんでいらっしゃる。
ご自分のお子といえども内大臣様はご立派な方なので、念入りにお支度なさって出ていらっしゃった。
でも内大臣様はご機嫌がお悪い。
「ここにおりましても女房たちの目が気になってしまいます。さぞや私のことを馬鹿にしているだろうと思われましてね。頼りない私ですが、母君のことをご尊敬もご信頼もして、力の限りお仕えしようと思っていたのでございます。それが、浅はかな娘のせいで母君をお恨み申し上げることになりますとは。お恨みなどしてはならぬと思う一方で、どうしても我慢できずに参った次第でございます」
とお泣きになるので、大宮様はびっくりして目を見開かれる。
「いったいどういうことですか。こんな年寄りにそのような悲しいことをおっしゃって」
内大臣様もさすがに母君をお気の毒に思われるけれど、言いたいことははっきりとおっしゃる。
「母君にお預けしていれば安心だと思って、姫のことを放っておいてしまった私が悪いのかもしれません。弘徽殿の女御様が内裏でご苦労をなさっていましたから、そちらばかり気にしていたのです。それでも母君なら一人前の女性にお育てくださるだろうと信じておりましたが、こちらのお屋敷で思いがけないことが起こっていたようです」
大宮様が何のお話だかつかめずにいらっしゃると、内大臣様がお続けになる。
「たしかに源氏の君の若君はご立派な方ですが、いとこ同士の結婚はあまりに手抜きだと世間から思われましょう。若君にとっても損でございます。親戚関係のない家の婿になって、めずらしがって世話をされるのが理想なのですから。源氏の君だって納得なさらないはずですよ。母君がどうしてもふたりを結婚させたいとお思いなのでしたら、そうおっしゃってくださればよろしかったのです。きちんと改まった縁組として、私の方で世間体を整えることもできましたのに、幼い子どもたちの惹かれ合うままにしておかれたのは残念でございます」
大宮様は夢にも思わなかったことで驚かれて、
「何も知りませんでした。それが本当なら私だって残念ですから、私のせいと思われてはつろうございますよ。姫の母親が他の男性と再婚して、幼い姫を私がお預かりすることになったときから、姫のためにあらゆることをしてあげようと努力してきたのです。まだほんの子どもだというのに、ふたりを結婚させたいなどと思ってはおりません。しかし、誰からお聞きになった話ですか。ふたりがそのような関係だとは私には信じられないのです。間違った噂に振り回されては、姫に傷をつけることになりましょう」
とおっしゃる。
「間違った噂などではございません。ここにいる女房たちも知っていて、陰で笑っていたのですよ。悲しくてなりません」
とお答えになって、ご退出なさる。
こそこそ話を内大臣様に聞かれてしまった老女房たちは、ついたての後ろでちぢこまっている。
<どうしてあんな話をしてしまったのか>
と後悔していたわ。



