野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

大宮(おおみや)様のところで、若君(わかぎみ)内大臣(ないだいじん)様の姫君(ひめぎみ)は、いとこ同士ご一緒に成長なさった。
姫君の方が二歳年上でいらっしゃる。
若君が十歳を過ぎたころにはお部屋が別々になって、内大臣様は、
「いとことはいえ、男の子と仲良くなりすぎてはいけませんよ」
と姫君にご注意なさる。

姫君が父君(ちちぎみ)のご注意を守っていらっしゃると、若君は幼心(おさなごころ)に悲しくなってしまわれる。
四季のお手紙を送ったり、姫君のお部屋へ遊びに行ってお人形遊びに付き合ったりして、姫君に好意(こうい)をお伝えになるの。
姫君も若君を愛しくお思いになるから、父君のおっしゃるようについたての奥に隠れることまではなさらない。

乳母(めのと)たちはおふたりの味方でいる。
「まだほんの子どもでいらっしゃいますのに。お小さいころからずっとご一緒だったのですから、急に『ついたて越しにお話しなされませ』なんてお気の毒でしょう」
と、おふたりの交流を大目(おおめ)に見ている。
たしかに姫君は、乳母たちが思っているように子どもっぽく無邪気でいらっしゃる。
でも若君は真剣に愛情を(つの)らせておいでなの。

若君は元服(げんぷく)すると二条(にじょう)(ひがし)(いん)にお移りになった。
源氏の君の厳しいご命令に従って、勉強部屋で学問をしていらっしゃる。
若君は姫君に会いたくてたまらないから、せめてお手紙だけお送りになる。
たどたどしいけれど将来が楽しみなご筆跡(ひっせき)よ。
姫君からのお返事もこっそりと届いて、文通で愛を深めていかれるの。

まだ幼いおふたりだから、お手紙を隠しわすれていらっしゃることもある。
乳母や女房(にょうぼう)はそれを読んで、おふたりのお互いへのご愛情の深さに気づいてはいるけれど、わざわざ父君たちにご報告はしない。