野いちご源氏物語 一九 薄雲(うすぐも)

そのころ、太政(だいじょう)大臣(だいじん)様がお亡くなりになった。
源氏(げんじ)(きみ)の亡き奥様の父君(ちちぎみ)よ。
貴族社会で深く信頼され尊敬されていらっしゃった方だたから、帝もお(なげ)きになる。
これまで太政大臣様にお任せしていればよかった内裏(だいり)でのお仕事を、今後は源氏の君がなさることになるの。
<忙しくなる。私に務まるだろうか>
と、気の重いことにお思いになった。

(みかど)は十四歳。
お年よりは大人びていらっしゃるから、政治の面でご心配申し上げる人はない。
<とはいえ、太政大臣様がお亡くなりになった今、帝がお頼りになれるのは後見(こうけん)役の私だけだ。そろそろ出家(しゅっけ)して政治の世界から引退したいと思っていたが、他に帝の後見役になれそうな方はいらっしゃらない。当分出家は無理だろう。太政大臣様にはもっと長生きしていただきたかった>
と残念にお思いになる。
婿君(むこぎみ)としてご法要(ほうよう)を行われる。
こういうとき、源氏の君は(じょう)が深くていらっしゃるから、実のお子様がた以上に丁寧なご法要をなさったわ。