源氏の君は大堰川の別荘にご到着なさった。
趣深く上品な暮らしをしていらっしゃることが伝わってくる。
明石の君ご自身も見るたびに垢抜けていかれる。
お姿はもちろん、お心構えも都の高貴な姫君と変わらないほどご立派よ。
源氏の君は、
<私のような身分の人が中流貴族の娘と恋人関係になることも、まぁ、世間ではないことではない。しかしこの人の場合は、父親の入道が変わり者として有名で、それで悪目立ちしてしまうのだ。本人は私の妻になってもおかしくないほど立派な人柄だというのに>
と悔しくていらっしゃる。
明日には帰ると紫の上に伝えて二条の院を出ていらっしゃったから、あまりゆっくりはおできにならない。
せめて楽器の合奏をして心を通いあわせたいとお思いになる。
源氏の君は筝を、女君は琵琶を弾いて合奏なさった。
<何でも見事にできてしまう人だ>
と感心なさる。
紫の上のもとでお育ちになっている明石の姫君のご様子を、女君が安心なさるように細々とお話しになるの。
源氏の君がふつうの恋人の家に行かれるときは、わざわざその家でお食事をなさるなんてことはない。
夜に訪問なさって、明け方前にお帰りになるのだもの。
でも、大堰川の別荘にはもう少し長く滞在なさるから、簡単なお食事を召し上がることもある。
それはつまり、明石の君の別荘がただの恋人の家ではなく、源氏の君の生活の場所のひとつになっているということ。
これはすごいことなのだけれど、源氏の君ははっきりとは公表なさらない。
あくまでも、嵯峨に建てたお寺や桂の別荘に行くと言ってお出かけになる。
かといって、「いかにもそのついで」という態度はお取りにならないから、やはり明石の君は大切にされていらっしゃるのよね。
女君もそれを分かっていて、わがままも、「どうせ私なんて」というような面倒なこともおっしゃらない。
ただ源氏の君の仰せに従って、素直にしていらっしゃる。
<源氏の君が私のところでお食事を召し上がるのを、世間は仕方がないことだと認めているらしい。それはここが都から離れていて、行き帰りに時間がかかる場所だからだろう。源氏の君ほどのご身分の方は、ふつう、恋人の家に長居してくつろぐことなどなさらない。私が二条の東の院に移って、それでもここにいたころのようにくつろいでいかれたら、その場合は間違いなく世間から見下される。『恋人未満の軽い扱いをされている女だ』と言われ、源氏の君にはすぐに飽きられてしまうだろう。そう思うと、今のようにたまにお越しいただくのが一番よい>
と、内心で計算しておられる。
趣深く上品な暮らしをしていらっしゃることが伝わってくる。
明石の君ご自身も見るたびに垢抜けていかれる。
お姿はもちろん、お心構えも都の高貴な姫君と変わらないほどご立派よ。
源氏の君は、
<私のような身分の人が中流貴族の娘と恋人関係になることも、まぁ、世間ではないことではない。しかしこの人の場合は、父親の入道が変わり者として有名で、それで悪目立ちしてしまうのだ。本人は私の妻になってもおかしくないほど立派な人柄だというのに>
と悔しくていらっしゃる。
明日には帰ると紫の上に伝えて二条の院を出ていらっしゃったから、あまりゆっくりはおできにならない。
せめて楽器の合奏をして心を通いあわせたいとお思いになる。
源氏の君は筝を、女君は琵琶を弾いて合奏なさった。
<何でも見事にできてしまう人だ>
と感心なさる。
紫の上のもとでお育ちになっている明石の姫君のご様子を、女君が安心なさるように細々とお話しになるの。
源氏の君がふつうの恋人の家に行かれるときは、わざわざその家でお食事をなさるなんてことはない。
夜に訪問なさって、明け方前にお帰りになるのだもの。
でも、大堰川の別荘にはもう少し長く滞在なさるから、簡単なお食事を召し上がることもある。
それはつまり、明石の君の別荘がただの恋人の家ではなく、源氏の君の生活の場所のひとつになっているということ。
これはすごいことなのだけれど、源氏の君ははっきりとは公表なさらない。
あくまでも、嵯峨に建てたお寺や桂の別荘に行くと言ってお出かけになる。
かといって、「いかにもそのついで」という態度はお取りにならないから、やはり明石の君は大切にされていらっしゃるのよね。
女君もそれを分かっていて、わがままも、「どうせ私なんて」というような面倒なこともおっしゃらない。
ただ源氏の君の仰せに従って、素直にしていらっしゃる。
<源氏の君が私のところでお食事を召し上がるのを、世間は仕方がないことだと認めているらしい。それはここが都から離れていて、行き帰りに時間がかかる場所だからだろう。源氏の君ほどのご身分の方は、ふつう、恋人の家に長居してくつろぐことなどなさらない。私が二条の東の院に移って、それでもここにいたころのようにくつろいでいかれたら、その場合は間違いなく世間から見下される。『恋人未満の軽い扱いをされている女だ』と言われ、源氏の君にはすぐに飽きられてしまうだろう。そう思うと、今のようにたまにお越しいただくのが一番よい>
と、内心で計算しておられる。



