野いちご源氏物語 一九 薄雲(うすぐも)

年が明けた。
空はうららかで、晴れ晴れとした二条(にじょう)(いん)には、ご挨拶(あいさつ)のためにたくさんのお客様がいらっしゃる。
どなたの表情も(おだ)やかなの。
政治がよい具合に安定していて、源氏(げんじ)(きみ)内大臣(ないだいじん)として尊敬されていらっしゃるのね。

そうそう、二条の(ひがし)(いん)に移っていらっしゃった花散里(はなちるさと)(きみ)
ご実家では貧しく寂しくお暮らしだったけれど、今はとてもお幸せそうよ。
女房(にょうぼう)女童(めのわらわ)もお行儀(ぎょうぎ)のよいきちんとした人ばかりで、女君(おんなぎみ)のお人柄(ひとがら)がうかがえるわ。
正直なところ、わざわざ夜に出かけていく魅力のある女君ではないの。
でも、東の院にお移りになってからは、昼間に源氏の君がふらりとお顔を見せにやっていらっしゃる。
お泊まりになることはないけれど、花散里の君は満足していらっしゃる。
<私はこのくらいの運命なのだ>
と、おっとり受け止めておられるの。
そうなると源氏の君はますますこの女君をご信頼なさって、経済的には(むらさき)(うえ)同格(どうかく)の扱いをなさる。
すると自然と世間からも大切にされて、二条の院に負けないほど立派なお暮らしぶりになっていかれた。