明石の君のところにも、お忙しいせいでなかなか訪問できずにいらっしゃった。
<もっと気楽に考えて二条の東の院に移ってきたらよいのに。東の院で軽んじられるのは嫌だと頑固にしているのは、身の程知らずな態度だろう。しかし気の毒でもある>
と同情なさって、内裏のお仕事が少し暇になったころ、嵯峨のお寺に行くと言ってお出かけになった。
大堰川の別荘はただでさえ寂しいところなのに、雰囲気がますます暗くなっている。
<姫を紫の上にお渡ししてしまって、この先私はどうなるのだろう>
と明石の君が深刻に思いつめていらっしゃるので、お屋敷全体がどんよりしてしまっているの。
さすがの源氏の君も慰めようがなくて困っていらっしゃる。
お庭の照明として焚いている火が、木立の隙間から蛍のようにちらちらと見える。
「明石の海辺にも、夜になるとこんなふうに火を焚いて漁をする船がありましたね」
と源氏の君がおっしゃると、
「私が嘆いているのを心配してやって来たのでしょうか」
と、ため息まじりにお答えになる。
「私は心の底からあなたを大切に思っているのに、どうして分かってくれないのだろう。逆に私の方が嘆いてしまう」
と困ったようにおっしゃって、明石の君をお抱きしめになる。
いつもより長くご滞在なさったので、女君のお気持ちも少し紛れたようだったわ。
<もっと気楽に考えて二条の東の院に移ってきたらよいのに。東の院で軽んじられるのは嫌だと頑固にしているのは、身の程知らずな態度だろう。しかし気の毒でもある>
と同情なさって、内裏のお仕事が少し暇になったころ、嵯峨のお寺に行くと言ってお出かけになった。
大堰川の別荘はただでさえ寂しいところなのに、雰囲気がますます暗くなっている。
<姫を紫の上にお渡ししてしまって、この先私はどうなるのだろう>
と明石の君が深刻に思いつめていらっしゃるので、お屋敷全体がどんよりしてしまっているの。
さすがの源氏の君も慰めようがなくて困っていらっしゃる。
お庭の照明として焚いている火が、木立の隙間から蛍のようにちらちらと見える。
「明石の海辺にも、夜になるとこんなふうに火を焚いて漁をする船がありましたね」
と源氏の君がおっしゃると、
「私が嘆いているのを心配してやって来たのでしょうか」
と、ため息まじりにお答えになる。
「私は心の底からあなたを大切に思っているのに、どうして分かってくれないのだろう。逆に私の方が嘆いてしまう」
と困ったようにおっしゃって、明石の君をお抱きしめになる。
いつもより長くご滞在なさったので、女君のお気持ちも少し紛れたようだったわ。



