「堅苦しいお話はこのくらいにして、女御様は春と秋のどちらがお好きですか。春は桜、秋は紅葉で、論争になってもはっきりとした結論は出ないようでございますね。しいて言うなら中国は春派、日本は秋派が多いのでしょうか。ご覧のとおり狭い庭でございますが、春や秋に楽しんでいただける植物を植えたいと思っているのです。女御様はどちらがお好きでしょう」
と、源氏の君はお尋ねになった。
口説くようなことをおっしゃると、女御様は迷惑がってお下がりになってしまうかもしれないから、無難な世間話のおつもりなのかしらね。
女御様は、
<簡単に決めてお答えできることでもないけれど、まったくお返事しないのもよくないだろう>
とお思いになる。
「世間でもはっきりしないことを私などが決められもいたしませんが、秋は母の亡くなった季節ですから、心にしみることも多うございます」
と可憐に優しくおっしゃる。
源氏の君は恋心を押さえきれなくなって、
「私もこの季節は人恋しくなるのです。とても耐えられないほどに」
とおっしゃる。
女御様は呆然としてしまわれた。
源氏の君は我慢していたお気持ちがあふれ出して止まらないの。
切々と恋心を訴えられたわ。
女御様は当然ご不快でいらっしゃる。
それに気づいて源氏の君はお黙りになったけれど、反省なさるご様子も女御様は鬱陶しくお感じになる。
何もおっしゃらないままそっと奥のお部屋へ下がろうとなさるので、源氏の君はあわてて声をおかけになった。
「これは失礼いたしました。しかし、立派な大人の女性はそのようにご冷淡にはなさらないものですよ。もうつまらぬことは申しません。悲しくなってしまいますから、どうか私をお憎みにはなりませんように」
と退出なさった。
女御様は、源氏の君のお着物の香りが残っていることさえ嫌だとお思いになる。
でも女房たちは、源氏の君の恋心にも女御様のご不快にも気づいていないの。
「まぁ、敷物にすばらしい香りが移ってございますよ。本当に何もかも完璧な方でいらっしゃること」
とうっとりしている。
と、源氏の君はお尋ねになった。
口説くようなことをおっしゃると、女御様は迷惑がってお下がりになってしまうかもしれないから、無難な世間話のおつもりなのかしらね。
女御様は、
<簡単に決めてお答えできることでもないけれど、まったくお返事しないのもよくないだろう>
とお思いになる。
「世間でもはっきりしないことを私などが決められもいたしませんが、秋は母の亡くなった季節ですから、心にしみることも多うございます」
と可憐に優しくおっしゃる。
源氏の君は恋心を押さえきれなくなって、
「私もこの季節は人恋しくなるのです。とても耐えられないほどに」
とおっしゃる。
女御様は呆然としてしまわれた。
源氏の君は我慢していたお気持ちがあふれ出して止まらないの。
切々と恋心を訴えられたわ。
女御様は当然ご不快でいらっしゃる。
それに気づいて源氏の君はお黙りになったけれど、反省なさるご様子も女御様は鬱陶しくお感じになる。
何もおっしゃらないままそっと奥のお部屋へ下がろうとなさるので、源氏の君はあわてて声をおかけになった。
「これは失礼いたしました。しかし、立派な大人の女性はそのようにご冷淡にはなさらないものですよ。もうつまらぬことは申しません。悲しくなってしまいますから、どうか私をお憎みにはなりませんように」
と退出なさった。
女御様は、源氏の君のお着物の香りが残っていることさえ嫌だとお思いになる。
でも女房たちは、源氏の君の恋心にも女御様のご不快にも気づいていないの。
「まぁ、敷物にすばらしい香りが移ってございますよ。本当に何もかも完璧な方でいらっしゃること」
とうっとりしている。



