野いちご源氏物語 一九 薄雲(うすぐも)

王命婦(おうのみょうぶ)を呼んで、くわしいことを問いただそうか。しかし、『せっかく秘密にしていたのに』と思われても気まずい。やはり源氏(げんじ)(きみ)に直接尋ねようか。『(みかど)皇子(みこ)ではないのに帝の(くらい)についた方はいらっしゃるか』というような聞き方ならば、さりげなく私が秘密を知ったことを伝えられるのではないだろうか>
とお考えになるけれど、なかなかちょうどよい機会が訪れない。
ご自分でもさまざまな書物(しょもつ)でお確かめになるけれど、日本ではそのような例が見つからないの。
まぁ、たとえあったとしても、それは秘密のままにされたのでしょうね。

帝の皇子が、皇族の身分を失ってただの貴族になったあと、もう一度皇族に戻って帝の位についた例はいくつかあった。
<源氏の君を皇族に戻して、私の父だからというのではなく、人柄(ひとがら)が立派だからという理由で帝の位におつけしようか>
とひそかに計画なさる。