船は思いどおりの風に押されて岸に着き、ご一行は予定どおり大堰川の別荘にお入りになった。
風情のあるお屋敷で、近くの大堰川が明石の海辺を思わせるから、安心しておられるご様子だったわ。
尼君の祖父君の別荘だったから、尼君は昔を思い出してなつかしくなっていらっしゃった。
修理された渡り廊下は、他に合わせて由緒あるようにつくられている。
お庭の人工の小川も雰囲気よく整えてあった。
まだ手を加えられそうなところはあるけれど、十分お住まいになれるお屋敷よ。
源氏の君は親しい家来に命じて、引越し祝いのお酒やお料理をお届けになる。
ご自分でお越しになるのは難しいの。
<紫の上に何と言って出かけたらよいだろうか>
とお悩みになって、何日も経ってしまった。
明石の君は、
<中途半端に都に出てきてしまったために、ご訪問がないことがよけいにつらい。明石の家が恋しい>
と悩みこんでしまわれる。
源氏の君が明石を去るときに残していかれた琴を、明石の君は今も大切にしていらっしゃるの。
それを取りだされる。
誰にも聞こえない山里だから、気を遣わずにお弾きになっていると、琴の音と松風が美しすぎるほど響きあった。
尼君は悲しそうに物に寄りかかっていらっしゃったけれど、起き上がっておっしゃる。
「夫を置いて、こんな尼姿で帰ってきたこの山里にも、明石と同じように松風が吹くのですね」
明石の君は、
「私の田舎くさい音色では、都のどなたにも響きませんでしょうが」
と、ぼんやりとお答えになる。
こんなふうに、毎日寂しそうにお暮らしになっていたわ。
風情のあるお屋敷で、近くの大堰川が明石の海辺を思わせるから、安心しておられるご様子だったわ。
尼君の祖父君の別荘だったから、尼君は昔を思い出してなつかしくなっていらっしゃった。
修理された渡り廊下は、他に合わせて由緒あるようにつくられている。
お庭の人工の小川も雰囲気よく整えてあった。
まだ手を加えられそうなところはあるけれど、十分お住まいになれるお屋敷よ。
源氏の君は親しい家来に命じて、引越し祝いのお酒やお料理をお届けになる。
ご自分でお越しになるのは難しいの。
<紫の上に何と言って出かけたらよいだろうか>
とお悩みになって、何日も経ってしまった。
明石の君は、
<中途半端に都に出てきてしまったために、ご訪問がないことがよけいにつらい。明石の家が恋しい>
と悩みこんでしまわれる。
源氏の君が明石を去るときに残していかれた琴を、明石の君は今も大切にしていらっしゃるの。
それを取りだされる。
誰にも聞こえない山里だから、気を遣わずにお弾きになっていると、琴の音と松風が美しすぎるほど響きあった。
尼君は悲しそうに物に寄りかかっていらっしゃったけれど、起き上がっておっしゃる。
「夫を置いて、こんな尼姿で帰ってきたこの山里にも、明石と同じように松風が吹くのですね」
明石の君は、
「私の田舎くさい音色では、都のどなたにも響きませんでしょうが」
と、ぼんやりとお答えになる。
こんなふうに、毎日寂しそうにお暮らしになっていたわ。



