野いちご源氏物語 一八 松風(まつかぜ)

明石(あかし)から都までは、人目(ひとめ)につかないよう船でお行きになる。
早朝に明石をお離れになった。
海辺には朝の(きり)がただよっていて、悲しいお別れの光景だった。
入道(にゅうどう)放心(ほうしん)したように、遠ざかっていく船をぼんやりと見つめている。

尼君(あまぎみ)は船が岸から離れていくと、思いがあふれてお泣きになる。
「すっかり明石での暮らしになじんでおりましたのに、捨てた都に戻らねばならないなんて」
明石の君もうなずいて、
「私も同じ気持ちでございます。心細うございます」
とお(なげ)きになった。