入道は思い出話を始めた。
「都でそこそこの出世をしたところで、子どもに贅沢な教育はできないものなのだ。都暮らしをあきらめて地方長官として田舎へ行けば、都にいたころよりも余裕ができる。私がこの明石へ来たのもそれが理由で、『これで思いどおりに娘のお世話ができる。この子の将来を輝かしいものにしてみせる』と思ったのだよ。
ただ、地方長官も楽な仕事ではなくてね。少なくとも私には向いていなかった。都に戻ることも考えたが、一度地方長官に落ちぶれた者は、もう出世競争には戻れないのだ。都の家が荒れていっても修理することさえままならないだろう。『愚かな選択をしたものだ』と、かつての競争相手に見下され、立派だった親の名に泥を塗ることになる。
播磨国の地方長官の任期が終わったあと、私は結局都には戻らず、明石で出家する道を選んだ。『都から出ていった時点で、まぁそうなるだろうと想像できたが』と笑われていたようだが、出家自体は立派な行為だと自信をもっていた。ところが、そなたが成長するにつれて、そなたを田舎に埋もれさせておくことが惜しくなったのだ。こんなに立派な娘をどうして貴族社会に出せないのかと、悩み嘆いてね。もう神仏に祈るしかなかった。私のような人生を送らせたくはないと、それだけを念じていたら、思いもかけず源氏の君とご縁があったのだ。
はじめはこちらの身分の低さをつらく思うこともあったが、姫がお生まれになって風向きが変わった。この姫は田舎でお育ちになってよいお方ではない。お会いできなくなることは苦しいが、私は世間を捨てて出家した身。それに比べて、娘と姫はこれから世間を照らす光である。そなたが私のような者のところに生まれていらっしゃったのが、そもそも何かの間違いだったのだ。そう思えば、これが永遠の別れであっても何もおかしくない。
私が死んだとお聞きになっても、葬式などなさるな。そのようなことに気をとられてはなりませぬ。私は死ぬその日まで姫のご出世を祈りましょう。仏様に叱られるだろうが、意地汚く祈りつづけましょうぞ」
そう言うと、入道は泣きくずれてしまった。
「都でそこそこの出世をしたところで、子どもに贅沢な教育はできないものなのだ。都暮らしをあきらめて地方長官として田舎へ行けば、都にいたころよりも余裕ができる。私がこの明石へ来たのもそれが理由で、『これで思いどおりに娘のお世話ができる。この子の将来を輝かしいものにしてみせる』と思ったのだよ。
ただ、地方長官も楽な仕事ではなくてね。少なくとも私には向いていなかった。都に戻ることも考えたが、一度地方長官に落ちぶれた者は、もう出世競争には戻れないのだ。都の家が荒れていっても修理することさえままならないだろう。『愚かな選択をしたものだ』と、かつての競争相手に見下され、立派だった親の名に泥を塗ることになる。
播磨国の地方長官の任期が終わったあと、私は結局都には戻らず、明石で出家する道を選んだ。『都から出ていった時点で、まぁそうなるだろうと想像できたが』と笑われていたようだが、出家自体は立派な行為だと自信をもっていた。ところが、そなたが成長するにつれて、そなたを田舎に埋もれさせておくことが惜しくなったのだ。こんなに立派な娘をどうして貴族社会に出せないのかと、悩み嘆いてね。もう神仏に祈るしかなかった。私のような人生を送らせたくはないと、それだけを念じていたら、思いもかけず源氏の君とご縁があったのだ。
はじめはこちらの身分の低さをつらく思うこともあったが、姫がお生まれになって風向きが変わった。この姫は田舎でお育ちになってよいお方ではない。お会いできなくなることは苦しいが、私は世間を捨てて出家した身。それに比べて、娘と姫はこれから世間を照らす光である。そなたが私のような者のところに生まれていらっしゃったのが、そもそも何かの間違いだったのだ。そう思えば、これが永遠の別れであっても何もおかしくない。
私が死んだとお聞きになっても、葬式などなさるな。そのようなことに気をとられてはなりませぬ。私は死ぬその日まで姫のご出世を祈りましょう。仏様に叱られるだろうが、意地汚く祈りつづけましょうぞ」
そう言うと、入道は泣きくずれてしまった。



