野いちご源氏物語 一八 松風(まつかぜ)

こうして明石(あかし)入道(にゅうどう)は、娘を都に送り出すといっても、(ひがし)(いん)ではなく、自分たち夫婦が所有(しょゆう)する別荘へ移そうとしている。
源氏(げんじ)(きみ)はそれをご存じないから、
<どうしてすぐにやって来ないのだ。姫が田舎(いなか)で生まれたというだけでも問題なのに、そのままそちらで育ったということになったら、将来に影響が出るではないか>
と心配しておられる。
将来明石の姫君(ひめぎみ)入内(じゅだい)させなさったとき、田舎育ちのお(きさき)様では不利になってしまうもの。

入道は嵯峨(さが)の別荘の修理が済むと、そちらに娘を移すと源氏の君に申し上げた。
<それで東の院に来なかったのか。入道は入道でしっかり考えていたのだ>
と感心なさったわ。
気の利く家来である惟光(これみつ)派遣(はけん)されて、いつ源氏の君が別荘を訪問してもよいように整えていった。
惟光は二条(にじょう)(いん)に戻ると、
大堰(おおい)(がわ)が近く、明石の海辺を思い出すような、風情(ふぜい)のあるよいところでございました」
と報告した。
源氏の君は、
<そういうところならば、あの人も落ち着いて暮らせるだろう>
と安心なさったわ。

源氏の君が嵯峨(さが)に建築しておられるお寺の近くには、有名な滝があるの。
滝を見るための建物もおつくりになって、それはそれは立派なお寺になりそう。
入道の大堰川近くの別荘は、松がたくさん生えているところに、素朴(そぼく)な雰囲気でつくってある。
田舎(いなか)(ふう)(おもむき)があるわ。
源氏の君は別荘の内装のことまで()(づか)っておあげになる。