二条の院をお出になって三日目。
今日は都へお戻りにならなければいけない。
「桂の別荘に工事の具合を見にいく」と言って都を出ていらっしゃったのだから、本当は朝早く出発して、桂へお寄りになるべきなのよ。
それはお分かりだけれど、源氏の君は明石の君と別れがたくて、ゆっくり朝寝坊なさっている。
このままだと桂には寄らずに、直接都にお戻りになることになりそう。
でも、桂の別荘にはたくさんの貴族が集まって、源氏の君がお越しになるのをお待ちしていた。
そのうちの何人かが、大堰川の別荘までお迎えにきてしまったの。
せっかくくつろいでいらっしゃったのに、源氏の君はお出ましになるしかない。
急いでお着替えをなさって、
「どうしてこんなところが見つかってしまったのだろう」
といまいましそうにおっしゃる。
やっと源氏の君を見つけられたお迎えの人たちが、うれしそうに騒いでいる。
さっさと出ていくのも明石の君が気の毒で、源氏の君は戸の前で立ち止まっていらっしゃった。
そこへ乳母が姫君を抱いてお連れしてきたの。
源氏の君はかわいらしくてたまらないというように姫君の頭をおなでになった。
「長く放っておいたというのに、今はもう離れるのが苦しいのだ。どうしたらよいだろう。こんなに来にくいところでは」
とおっしゃると、乳母は、
「明石におりましたころはまだようございましたが、姫様が都に上られてこれからどれほど大切にしていただけるか、それが心配でございます」
と申し上げる。
姫君は両手を挙げて、父君に抱っこをおねだりなさる。
源氏の君は思わずひざまずいて姫君をお抱きしめになる。
「私はどうしてこんなにも悩みの尽きない身なのだろうか。あぁ、姫よ、父はしばらくそなたに会えないだけでも苦しい。母君はどうして一緒に見送ってくださらないのか。そうでなければ父は泣いてしまう」
と、本心とも冗談ともつかないことをおっしゃる。
乳母は、<あらまぁ>と苦笑いして、明石の君にお伝えにいったわ。
女君はひさしぶりに源氏の君にお会いして、かえってお心が乱れていらっしゃった。
横になっておられたので、急にお起きになることができない。
源氏の君はそれをご存じないので、
<軽々しい女だと思われたくないのだろうか。もったいぶりすぎだ>
と苦くお思いになっている。
女房たちが口々に急かすので、女君はそろそろとついたての向こうまで出ていらっしゃった。
うっすらと見える横顔はとても上品で美しく、まるで尊い内親王のようでいらっしゃる。
源氏の君はついたてをどけて、愛情をこめてお話しになる。
お迎えの人たちが、源氏の君を待ちかねてさらに騒がしくなってきた。
<本当にもう出なければ>
と源氏の君は戸へ向かわれる。
名残惜しそうに女君の方を振り向くと、心の乱れをなんとか抑えて源氏の君をお見送りなさるおつもりのようだった。
女君から見た源氏の君は、言いようもなく男盛りでいらっしゃる。
明石にいらしたころは、ほっそりとした青年らしいお姿だったけれど、三十代におなりになった今は貫禄がおつきになった。
お着物の裾からさえも魅力がこぼれ出るようよ。
あら、ちょっとほめすぎかしら?
本当にそうなのだけれど。
今日は都へお戻りにならなければいけない。
「桂の別荘に工事の具合を見にいく」と言って都を出ていらっしゃったのだから、本当は朝早く出発して、桂へお寄りになるべきなのよ。
それはお分かりだけれど、源氏の君は明石の君と別れがたくて、ゆっくり朝寝坊なさっている。
このままだと桂には寄らずに、直接都にお戻りになることになりそう。
でも、桂の別荘にはたくさんの貴族が集まって、源氏の君がお越しになるのをお待ちしていた。
そのうちの何人かが、大堰川の別荘までお迎えにきてしまったの。
せっかくくつろいでいらっしゃったのに、源氏の君はお出ましになるしかない。
急いでお着替えをなさって、
「どうしてこんなところが見つかってしまったのだろう」
といまいましそうにおっしゃる。
やっと源氏の君を見つけられたお迎えの人たちが、うれしそうに騒いでいる。
さっさと出ていくのも明石の君が気の毒で、源氏の君は戸の前で立ち止まっていらっしゃった。
そこへ乳母が姫君を抱いてお連れしてきたの。
源氏の君はかわいらしくてたまらないというように姫君の頭をおなでになった。
「長く放っておいたというのに、今はもう離れるのが苦しいのだ。どうしたらよいだろう。こんなに来にくいところでは」
とおっしゃると、乳母は、
「明石におりましたころはまだようございましたが、姫様が都に上られてこれからどれほど大切にしていただけるか、それが心配でございます」
と申し上げる。
姫君は両手を挙げて、父君に抱っこをおねだりなさる。
源氏の君は思わずひざまずいて姫君をお抱きしめになる。
「私はどうしてこんなにも悩みの尽きない身なのだろうか。あぁ、姫よ、父はしばらくそなたに会えないだけでも苦しい。母君はどうして一緒に見送ってくださらないのか。そうでなければ父は泣いてしまう」
と、本心とも冗談ともつかないことをおっしゃる。
乳母は、<あらまぁ>と苦笑いして、明石の君にお伝えにいったわ。
女君はひさしぶりに源氏の君にお会いして、かえってお心が乱れていらっしゃった。
横になっておられたので、急にお起きになることができない。
源氏の君はそれをご存じないので、
<軽々しい女だと思われたくないのだろうか。もったいぶりすぎだ>
と苦くお思いになっている。
女房たちが口々に急かすので、女君はそろそろとついたての向こうまで出ていらっしゃった。
うっすらと見える横顔はとても上品で美しく、まるで尊い内親王のようでいらっしゃる。
源氏の君はついたてをどけて、愛情をこめてお話しになる。
お迎えの人たちが、源氏の君を待ちかねてさらに騒がしくなってきた。
<本当にもう出なければ>
と源氏の君は戸へ向かわれる。
名残惜しそうに女君の方を振り向くと、心の乱れをなんとか抑えて源氏の君をお見送りなさるおつもりのようだった。
女君から見た源氏の君は、言いようもなく男盛りでいらっしゃる。
明石にいらしたころは、ほっそりとした青年らしいお姿だったけれど、三十代におなりになった今は貫禄がおつきになった。
お着物の裾からさえも魅力がこぼれ出るようよ。
あら、ちょっとほめすぎかしら?
本当にそうなのだけれど。



