野いちご源氏物語 一八 松風(まつかぜ)

明石(あかし)(きみ)は、明石で源氏(げんじ)(きみ)と過ごされた最後の夜を思い出しておられた。
源氏の君もまた、あのお別れの夜を思い出しながら帰っていらっしゃったの。
明石の君は思い出の(きん)を取りだして、源氏の君の前にお出しする。
<あぁ、今夜は弾かずにはいられない気分だ>
とお弾きになった。

(きん)の音色は変わらないまま。
おふたりはあの夜に戻ったような気がなさる。
(きん)()をお聞きになれば分かるでしょう。私はずっとあなたのことを思っていましたよ」
と源氏の君がおっしゃると、女君(おんなぎみ)は、
「お心は変わらないというお約束を信じて、明石でも弾いておりました」
とお答えになる。
お似合いのおふたりでいらっしゃるけれど、明石の君のご身分を考えれば、信じられないほどのお幸せでしょうね。

明石の君はよりいっそう美しくなっておられるし、姫君(ひめぎみ)は最高におかわいらしいし、源氏の君はお悩みになる。
<姫をこの先どうしたらよいだろう。世間に知らせないまま隠して育てるのはあまりに()しい。いっそ二条(にじょう)(いん)に引き取って、(むらさき)(うえ)に育てさせようか。立派な身分の養母(ようぼ)が育てれば、世間から見下されることはない。しかし、明石の君はどう思うだろうか。いくら姫のためとはいえ、他人に渡すのはつらいだろう>
とお考えになると言い出すことはできず、涙ぐんで姫君をご覧になる。

姫君は(ひと)()()りするお年なので、初めのうちこそ父君を恥ずかしがっていらっしゃったけれど、だんだん慣れて、かわいらしくおしゃべりしたり笑ったりなさる。
まとわりつこうとなさる姫君を、源氏の君がお()きになる。
その父娘のご様子は、幸福と幸運に包まれていらっしゃったわ。