源氏の君は、大堰川の別荘にも事務仕事をする家来をお置きになる。
今後修理するべき箇所を指示なさっていたわ。
「桂の別荘に行く」と言って二条の院を出ていらっしゃったので、桂周辺のご領地の人たちが、源氏の君を探して集まってきたの。
源氏の君はその人たちに命じて、折れた植木などを片付けさせなさる。
「倒れてしまっているお庭の石をきちんと立てなおせば、よい風情になるでしょうね。しかし、ほんのしばらく暮らすだけのお屋敷を完璧に整えるのは、あまりよくありません。出ていきにくくなってしまうからね。私が明石を離れるときもそうだった」
とおっしゃって、泣いたり笑ったりなさる。
明石の君の母である尼君は、こっそりこのご様子を覗いていらっしゃった。
ご立派でお美しい源氏の君のお姿に、寿命が延びるような気がしてほほえんでおられるの。
源氏の君は濡れ縁に出ていらっしゃった。
渡り廊下の下を流れる小川のことで、何か指示をしようとしておられる。
くつろいだ格好の源氏の君が尼君のところからはっきりと見えて、
<なんとお美しい>
と感激していらっしゃったわ。
源氏の君は、奥のお部屋に仏像のためのお道具が置いてあることにお気づきになった。
「こちらは尼君のお部屋でしたか。みっともない格好で失礼いたしました」
とおっしゃって、きちんとお着物をお召しになった。
尼君とついたてをはさんでお話しになる。
「姫がここまで元気に育ったのは、きっと尼君が仏様にお祈りしてくださったおかげですね。住みなれた明石で仏教の修行に集中しておられましたのに、騒がしい都に出てきていただき感謝しております。一方で入道殿は明石に残られたとか。おひとりでどのようにお過ごしでしょうか。さぞかし心配なさっているのではと、私も心苦しく思っております」
と、尼君をいたわるように優しくおっしゃるの。
「遠い昔に捨てたはずの都へ戻り、思い乱れておりましたが、そんなふうにおっしゃってくださいますと、長生きした甲斐があったと嬉しゅうございます。姫君がお育ちになるのに、あのような田舎ではもったいないと思っておりました。今はもうご立派な父君のおそばで安心でございますが、それでも母親の身分の低いことが、姫君の足かせになってしまうのではないかと気がかりで」
などと泣きながらおっしゃる。
そのご様子は、さすが宮様の孫君だけあって上品でいらっしゃるの。
源氏の君が、
「亡き宮様は、このお屋敷でどのようにお暮らしだったのでしょうか」
とお尋ねになると、尼君はなつかしい思い出話をぽつりぽつりとなさる。
整備されたばかりのお庭の小川が、さらさらと楽しそうに流れていく。
「小川の水の方が、私よりもおしゃべりでございますね。私はぽつりぽつりとしかお話しできませんのに」
と苦笑いなさるの。
控えめで上品な女性でいらっしゃることに、源氏の君は満足しておられたわ。
「小川の水も驚いていることでしょう。若かったあなたが、尼姿になって戻っていらっしゃったのですから。悲しいことです」
と、立ち上がって外をご覧になる。
尼君は、
<なんというお美しさだ>
とあらためてお思いになった。
今後修理するべき箇所を指示なさっていたわ。
「桂の別荘に行く」と言って二条の院を出ていらっしゃったので、桂周辺のご領地の人たちが、源氏の君を探して集まってきたの。
源氏の君はその人たちに命じて、折れた植木などを片付けさせなさる。
「倒れてしまっているお庭の石をきちんと立てなおせば、よい風情になるでしょうね。しかし、ほんのしばらく暮らすだけのお屋敷を完璧に整えるのは、あまりよくありません。出ていきにくくなってしまうからね。私が明石を離れるときもそうだった」
とおっしゃって、泣いたり笑ったりなさる。
明石の君の母である尼君は、こっそりこのご様子を覗いていらっしゃった。
ご立派でお美しい源氏の君のお姿に、寿命が延びるような気がしてほほえんでおられるの。
源氏の君は濡れ縁に出ていらっしゃった。
渡り廊下の下を流れる小川のことで、何か指示をしようとしておられる。
くつろいだ格好の源氏の君が尼君のところからはっきりと見えて、
<なんとお美しい>
と感激していらっしゃったわ。
源氏の君は、奥のお部屋に仏像のためのお道具が置いてあることにお気づきになった。
「こちらは尼君のお部屋でしたか。みっともない格好で失礼いたしました」
とおっしゃって、きちんとお着物をお召しになった。
尼君とついたてをはさんでお話しになる。
「姫がここまで元気に育ったのは、きっと尼君が仏様にお祈りしてくださったおかげですね。住みなれた明石で仏教の修行に集中しておられましたのに、騒がしい都に出てきていただき感謝しております。一方で入道殿は明石に残られたとか。おひとりでどのようにお過ごしでしょうか。さぞかし心配なさっているのではと、私も心苦しく思っております」
と、尼君をいたわるように優しくおっしゃるの。
「遠い昔に捨てたはずの都へ戻り、思い乱れておりましたが、そんなふうにおっしゃってくださいますと、長生きした甲斐があったと嬉しゅうございます。姫君がお育ちになるのに、あのような田舎ではもったいないと思っておりました。今はもうご立派な父君のおそばで安心でございますが、それでも母親の身分の低いことが、姫君の足かせになってしまうのではないかと気がかりで」
などと泣きながらおっしゃる。
そのご様子は、さすが宮様の孫君だけあって上品でいらっしゃるの。
源氏の君が、
「亡き宮様は、このお屋敷でどのようにお暮らしだったのでしょうか」
とお尋ねになると、尼君はなつかしい思い出話をぽつりぽつりとなさる。
整備されたばかりのお庭の小川が、さらさらと楽しそうに流れていく。
「小川の水の方が、私よりもおしゃべりでございますね。私はぽつりぽつりとしかお話しできませんのに」
と苦笑いなさるの。
控えめで上品な女性でいらっしゃることに、源氏の君は満足しておられたわ。
「小川の水も驚いていることでしょう。若かったあなたが、尼姿になって戻っていらっしゃったのですから。悲しいことです」
と、立ち上がって外をご覧になる。
尼君は、
<なんというお美しさだ>
とあらためてお思いになった。



