野いちご源氏物語 一八 松風(まつかぜ)

源氏(げんじ)の君は、明石(あかし)(きみ)姫君(ひめぎみ)を世間にまだ公表なさっていないから、ひそかにご訪問なさった。
(ねん)()りに()支度(じたく)をなさって、薄暗くなってからご到着されたわ。
明石にお暮らしだったころは、謹慎(きんしん)中の身ということで質素なお着物をお召しだった。
それでも信じられないほどお美しかったのに、今はご身分にふさわしい立派な格好をしていらっしゃる。
この世の人とは思えないほど上品でまぶしくていらっしゃるので、明石の君は真っ暗だった心が晴れていった。

初めての女のお子だから、源氏の君は明石の姫君がめずらしくてかわいらしくて、すっかり魅了(みりょう)されてしまわれる。
<どうして二年以上も離れて暮らしていたのだろう。毎日近くで見てかわいがりたかった>
と後悔なさったわ。

亡き奥様がお生みになった若君(わかぎみ)は、そろそろ元服(げんぷく)というお年になっていて、お美しいと世間からもてはやされていらっしゃる。
でもそれは、「あの源氏の君のご子息(しそく)だ」と思うからなんとなくそう見えてしまう、という部分もあるじゃない?
この姫君はそうではないのよ。
<私の子だと知らない者が見ても、とんでもなくかわいらしいと思うに違いない。美人になる子は、こんなに小さいうちからはっきりとかわいらしいのだ>
とご覧になっている。

都から明石へ派遣(はけん)なさった乳母(めのと)は、以前は生活に疲れてやつれていたけれど、今はふっくらとして表情も明るくなっていた。
話好きな人なので、明石でのことをあれこれお話し申し上げる。
源氏の君は、田舎(いなか)暮らしに()えて立派に役目(やくめ)を果たしたことをおほめになったわ。

「ここでは遠すぎて通いにくい。やはり二条(にじょう)(ひがし)(いん)にお移りなさい」
とお誘いになるけれど、明石の君は、
「田舎から出てきたばかりでございますので、いきなり都の中心に出るのはためらわれます。もう少しこの郊外(こうがい)に暮らして、都の雰囲気になじみましてから」
とお返事なさる。
源氏の君は一晩中、将来のさまざまなことをお約束なさっていた。