二匹の神使な妖獣からの溺愛が止まない

「蘭が神使じゃなくなるのだって寂しいのに…人間になるなんて…そんなの寂しすぎるよっ…」



惺音の涙は止まらない。



俺は惺音の話を聞いてやることしかできない。



「その上、あたしの手で蘭のことを人間にするなんて…こんな迷った気持ちでやって失敗したらと思うと、怖くてできない…っ」



それから惺音はただ泣いて。



泣き疲れて眠る惺音の寝顔を俺は見ていた。



そして、蘭のことを考える。



蘭だって色んなことを考えたうえでこの決断をした。



蘭の気持ちは分かる気がする。



愛する人と一緒に生きていけないつらさは想像できる。



そして、人間になるとしたら。



俺が蘭の立場でも絶対に惺音の手でやってもらうことを願う。



死んだって惺音の手でなら本望だ。



でもそれはあまりにも惺音には重い願望であることも分かる…。



それから惺音は蘭の願望を受け入れられないまま季節は流れて行った。



蘭は相変わらず受験勉強を頑張っていて。



受験本番まではもう少しだ。



惺音は蘭のことを人間にできる、自分よりも力の強い妖を探している。



でもそれはなかなか見つからない。



それもそうだ。



妖丹をたくさん飲んで、18歳になった九尾狐である惺音に敵う妖なんてそうそういない…。



碧の父親なら強大な力を持っていると思うが、今は病に伏せていて無理だ。



そんな中、和音さんの紹介で一人匹敵する妖を見つけた。



弥勒寺(みろくじ)の大天狗…。



俺たちはその天狗に会いに行くことにした。



寺の裏手の山に住んでいるという天狗。



天山(てんざん)様。稲荷神の子、御饌津惺音が参りました」



惺音が山に向かって声を張り上げて天狗の名前を呼ぶ。



すると、山がざわめきだした。



そして…。



風と共に、木の上から、巨大な天狗が降ってきた。



これが、大天狗・天山…。



高下駄を履いた天山は、大きさもさることながら、鋭い目で俺らを威圧している。