野いちご源氏物語 一七 絵合(えあわせ)

入道(にゅうどう)(みや)様は、数人の女房(にょうぼう)だけを呼んで絵合(えあわせ)を行わせなさったの。
呼ばれなかった女房たちは、自分も絵を拝見したかったとやきもきしている。
源氏(げんじ)(きみ)はおもしろくお思いになって、
「どうせ勝負をするなら、(みかど)御前(ごぜん)絵合(えあわせ)をなさっては」
と提案なさった。
源氏の君はこんなこともあろうかと、特によい絵はまだ梅壺(うめつぼ)に届けていらっしゃらなかったのよ。

「新しく()かせたのではおもしろくない。もとから持っているものだけで勝負しましょう」
と源氏の君はおっしゃったけれど、(ごんの)中納言(ちゅうなごん)様だってお負けになるわけにはいかない。
こっそりと()かせていらっしゃったみたい。
上皇(じょうこう)様は絵合が行われるとお聞きになって、斎宮(さいぐう)女御(にょうご)様を応援なさる。
お持ちの絵のなかから、由緒(ゆいしょ)あるすばらしい作品をお贈りになったわ。
女御様へのご伝言で、
「もう内裏の外にいる身ですが、帝時代にあなたに(いだ)いた恋心は今も忘れていませんよ」
とおっしゃった。
お返事をしないのも恐れ多いので、女御様は苦しく思いながらも、少しだけお書きになる。
「私が新斎宮として儀式(ぎしき)に参列しましたころとは、内裏の雰囲気も違うような気がいたします。斎宮時代が(なつ)かしく、恋しく思い出されます」

上皇様はこれをご覧になって、
<私がまだ帝でいて、姫宮(ひめみや)は母が亡くなったことを理由に都に戻ってきたのだったら、源氏の君が何と言おうと(きさき)にできただろうに>
とお思いになる。
姫宮を帝に差し上げてしまった源氏の君のことを、さぞや(うら)めしくお思いだったことでしょうね。