野いちご源氏物語 一七 絵合(えあわせ)

内裏(だいり)に上がっておられた入道(にゅうどう)(みや)様は、両方の絵をご覧になって、あることを思いつかれた。
梅壺(うめつぼ)左方(ひだりかた)弘徽殿(こきでん)右方(みぎかた)にして、左右で絵を戦わせる絵合(えあわせ)よ。
左方は、源氏(げんじ)(きみ)由緒(ゆいしょ)正しい物語の絵をそろえ、右方は、(ごんの)中納言(ちゅうなごん)様が現代風の華やかな絵をおそろえになった。
少し見ただけだと右方が強そうな気がするけれど、さてどうなるかしら。

一戦(いっせん)()は、左方が『竹取(たけとり)物語』、右方が『宇津保(うつぼ)物語』よ。
左方の女房(にょうぼう)は、
「竹取物語はありとあらゆる物語の祖先(そせん)でございます。目新しいものではありませんが、かぐや姫はこの世に(けが)れず、月へと帰っていきました。立派な心がけと言えるでしょう。今どきの(うわ)ついた方たちにはお分かりにならないかもしれませんが」
などと主張する。

右方の女房は、
「竹から生まれた姫なんて、身分が低うございます。それに、(みかど)のお()しを断って月へ帰ることが、立派な心がけと言えるでしょうか。こちらの宇津保物語の主人公は、苦労して中国へ渡りました。音楽の才能をたよりに中国でも日本でも認められたのです。こういう人物こそ立派と言うべきでしょう。絵としても、中国の様子と日本の様子を比べて楽しむことができますから、とてもおもしろい作品でございます」
と反論したわ。