野いちご源氏物語 一七 絵合(えあわせ)

姫宮(ひめみや)入内(じゅだい)なさっても、上皇(じょうこう)様は未練(みれん)が残っておられる。
源氏(げんじ)(きみ)がご挨拶(あいさつ)に上がると、姫宮のことが話題になった。
上皇様は姫宮へのお気持ちをはっきりと(おお)せにはならない。
源氏の君は気づかないふりをしながら、
<どの程度気にしておられるのだろうか>
と探りを入れてごらんになる。
かなりおつらそうなご様子なの。
源氏の君はお気の毒にお思いになったわ。

<上皇様がここまで気にかけておられるとは、どのようなお美しさなのだろう>
と、源氏の君はますます興味をおもちになる。
でも、姫宮はうっかり人にお顔を見られるような、子どもっぽいふるまいをなさる方ではない。
源氏の君は姫宮のお世話をなさればなさるほど、奥ゆかしいお人柄(ひとがら)でいらっしゃることが分かっていくだけ。
<理想的な女性のおふるまいだ>
と感心していらっしゃったわ。
姫宮は伊勢(いせ)神宮(じんぐう)で「斎宮(さいぐう)」というお役目をしておられたから、これからは斎宮の女御(にょうご)様とお呼びいたしましょう。

さて、(ごんの)中納言(ちゅうなごん)様と源氏の君の他に、兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様も姫君(ひめぎみ)を入内させようと計画しておられたのだったわね。
兵部卿の宮様は、入道(にゅうどう)の宮様の兄宮(あにみや)で、(むらさき)(うえ)父宮(ちちみや)でいらっしゃる。
本来なら堂々と姫君を入内させられるご身分だけれど、
弘徽殿(こきでん)の女御様と斎宮の女御様の勢いが強すぎる。今すぐ姫を入内させても、おふたりに圧倒(あっとう)されてしまうだろう。(みかど)がもう少し大人になられて、お(きさき)方の(あつか)いを学ばれてからの方がよい。分別(ふんべつ)がおつきになれば、私の姫も身分にふさわしく扱ってくださるはずだ>
と、その時を待っていらっしゃる。