源氏の君が都にお戻りになった翌年、空蝉の君の夫も任期を終えて都に戻ることになった。常陸の国に赴任していた人だから、前常陸の介と呼ばれている。
夫妻が懐かしい都の近くまで帰ってきた日のこと。源氏の君はお参りのために石山寺へ向かっていらっしゃった。ちょうど逢坂の関という関所のあたりですれ違うことになる。
<源氏の君のお行列ならば、さぞかしお供が大勢いるだろう。道が混雑する前に関所を通過してしまいたい>
介は明け方から急いで移動する。
しかし介一行には女性用の乗り物も多く、ゆっくりとしか移動できない。源氏の君の行列がまもなく関所にさしかかると聞いた介は、先に通過することを諦めた。このあたりは山なので、乗り物を木陰に停めて、源氏の君一行をやり過ごすことにする。
源氏の君は女性用の乗り物がたくさん停まっていることに目をお留めになる。簾の下から出している着物の袖の色合いが、田舎から来た人たちとは思えない趣味のよさだった。
「地方長官の一行のように見えるが、どこの国から戻ってきた人たちだ」
源氏の君がお尋ねになると、
「前常陸の介の一行でございます」
とお供はお答えした。
「それならば、介の後妻の弟に、私が小君と呼んでかわいがっていた者がいるはずだ。探して呼んでまいれ」
すぐに小君はやって来た。立派な青年になっている。
「そなたの姉君が常陸の国から戻っていらっしゃると聞いてね、お迎えにあがったのだよ。そう姉君にお伝えしておくれ。少しは私のことを懐かしく思ってくださるだろうか」
たまたますれ違っただけなのに、大げさな冗談になさる。思い出も未練も多いけれど、相手は人妻だからそのくらいしかおっしゃれない。
小君から伝言を聞いた空蝉の君は昔を思い出す。
<あれから十年、私はすっかり地方長官の後妻が板についてしまった。源氏の君と私はすれ違うだけの運命なのだろう。ひそかに涙を流したところで、あちらはお気づきにもならない>
もう二度と人生が重なることはないのだと思うと悲しい。
夫妻が懐かしい都の近くまで帰ってきた日のこと。源氏の君はお参りのために石山寺へ向かっていらっしゃった。ちょうど逢坂の関という関所のあたりですれ違うことになる。
<源氏の君のお行列ならば、さぞかしお供が大勢いるだろう。道が混雑する前に関所を通過してしまいたい>
介は明け方から急いで移動する。
しかし介一行には女性用の乗り物も多く、ゆっくりとしか移動できない。源氏の君の行列がまもなく関所にさしかかると聞いた介は、先に通過することを諦めた。このあたりは山なので、乗り物を木陰に停めて、源氏の君一行をやり過ごすことにする。
源氏の君は女性用の乗り物がたくさん停まっていることに目をお留めになる。簾の下から出している着物の袖の色合いが、田舎から来た人たちとは思えない趣味のよさだった。
「地方長官の一行のように見えるが、どこの国から戻ってきた人たちだ」
源氏の君がお尋ねになると、
「前常陸の介の一行でございます」
とお供はお答えした。
「それならば、介の後妻の弟に、私が小君と呼んでかわいがっていた者がいるはずだ。探して呼んでまいれ」
すぐに小君はやって来た。立派な青年になっている。
「そなたの姉君が常陸の国から戻っていらっしゃると聞いてね、お迎えにあがったのだよ。そう姉君にお伝えしておくれ。少しは私のことを懐かしく思ってくださるだろうか」
たまたますれ違っただけなのに、大げさな冗談になさる。思い出も未練も多いけれど、相手は人妻だからそのくらいしかおっしゃれない。
小君から伝言を聞いた空蝉の君は昔を思い出す。
<あれから十年、私はすっかり地方長官の後妻が板についてしまった。源氏の君と私はすれ違うだけの運命なのだろう。ひそかに涙を流したところで、あちらはお気づきにもならない>
もう二度と人生が重なることはないのだと思うと悲しい。



