野いちご源氏物語 一六 関屋(せきや)

 さて、次は空蝉(うつせみ)の君(きみ)の話をいたしましょう。
 源氏(げんじ)の君(きみ)は十代のころに、地方長官の後妻(ごさい)の空蝉の君と一度だけ関係をお持ちになった。その後も何度か会おうとなさったけれど、女君(おんなぎみ)は身分差や人妻であることを気にして源氏の君を拒(こば)む。そのまま夫の赴任(ふにん)先(さき)へついていったのだった。
 下級貴族は地方長官として各地を転々とすることも多い。空蝉の君の夫はその後常陸(ひたち)の国(くに)に赴任して、夫妻はそこで源氏の君が須磨(すま)へお移りになったことを知った。
<お見舞いの手紙を差し上げたい>
 空蝉の君はそう思ったけれど、はるばる常陸の国から摂津(せっつ)の国(くに)まで手紙を届ける手段がない。結局、それ以上の噂(うわさ)を聞くこともできずに年月が経(た)ってしまった。