野いちご源氏物語 一五 蓬生(よもぎう)

源氏(げんじ)(きみ)が都に戻られて三か月、冬が近づいていたころ。
だんだん寒くなってくると、頼れる人のいない姫君(ひめぎみ)は悲しそうにお悩みになる。
そのころ源氏の君は、亡き上皇(じょうこう)様のためのご法要(ほうよう)を盛大になさっていた。
ご法要には優秀な僧侶(そうりょ)だけをたくさんお集めになって、そのなかに姫君の兄君(あにぎみ)もいらっしゃった。
兄らしく姫君の面倒を見ることはなさらない方だけれど、僧侶としては(すぐ)れておられるのよね。

ご法要から山のお寺に戻る途中で、兄君は姫君をご訪問なさった。
「源氏の君のご法要に参加してまいりましたよ。ここは極楽(ごくらく)浄土(じょうど)かと思うような、見事な演出でした。あの方は(ほとけ)様が人間に()けていらっしゃるのではないだろうか。本当に人間だとしたら、どうしてこんな薄汚れた世の中にお生まれになったのだろう」
と、言いたいことだけを言って、さっさとお帰りになってしまったの。
ご兄妹でしみじみと世間話をなさることもない。
お互いに変わり者でいらっしゃるから、見えているものや考えていることが、ふつうとは少し違っておられるのでしょうね。

おひとりになった姫君は、
<こんなに苦しんでいる私を放っておかれるなんて、仏様にしてはずいぶん冷たくていらっしゃる。もうこれ以上はお待ちしても無駄(むだ)だろう>
(あきら)めはじめていらっしゃる。
そこへ叔母君(おばぎみ)が突然いらっしゃったの。