野いちご源氏物語 一五 蓬生(よもぎう)

 姫君(ひめぎみ)乳母(めのと)の娘は侍従(じじゅう)と呼ばれて、長く姫君にお仕えしている。他の屋敷でも()()ちで働きつつ、姫君のお暮らしをなんとか支えようとしていた。
 しかし、掛け持ち先の主人が亡くなって、貴重な収入(しゅうにゅう)(げん)を失ってしまった。このままでは姫君と(とも)(だお)れになってしまう。
 姫君の母君(ははぎみ)の妹、つまり姫君の叔母(おば)は地方長官の正妻(せいさい)で、娘のためによい女房(にょうぼう)を探していた。
<まったく知らないお屋敷に(つと)めるより安心だろう>
 侍従は姫君の叔母の屋敷へときどき通うようになった。

 引っ込み思案(じあん)な姫君はこの叔母(おば)と交流がない。叔母は叔母で、宮家とは確執(かくしつ)があった。
「亡き姉君(あねぎみ)は私を恥ずかしい妹と思っていらっしゃったのだよ。ご自分は常陸(ひたち)(みや)のご正妻(せいさい)なのに、私は地方長官ごときと結婚してしまったからね。姫君が貧しくてお困りのようだけれど、そんなふうに思われていたところへ『援助(えんじょ)いたしましょうか』なんて失礼だろう」
 侍従に嫌味(いやみ)たらしく言いながら、ときどき仕方なく手紙を差し上げている。
 地方長官の妻程度の人は、高貴(こうき)な人のまねをして、少なくとも表面上は上品ぶることが多い。この叔母は立派な家に生まれたわりに品のない人だった。こんな性格だから落ちぶれた結婚しかできなかったのでしょうね。

<姉君は私をお見下(みくだ)しだったが、時代は変わった。お子は宮家の姫君だというのにひどく困窮(こんきゅう)していらっしゃる。さぁ、このやんごとない姫君を、我が家の姫たちの女房(にょうぼう)にしてやろう。古臭いご性格のようだけれど、今どきの(うわ)ついた女房よりは安心だ>
 叔母はほくそ笑んで計画する。
「ときどき私どもの屋敷にもお越しくださいませ。娘たちがお(こと)()を聞かせていただきたいと申しておりますから」
 と姫君に手紙を送った。

 侍従も叔母の味方をする。
「ご両親はお亡くなりになって、兄君(あにぎみ)も山のお寺なのですから、姫様にはもうこの叔母君だけが頼りになるご親戚(しんせき)です。今からでも仲良くなさった方がよろしゅうございます。私がお(とも)いたしますから、一度お訪ねなされませ」
 しかし姫君には叔母と()ちとけるおつもりなどない。叔母を見下しているのではなく、とにかく引っ込み思案だった。叔母は、
<姉君に似て(にく)たらしい(めい)だ>
 といらだっている。