姫君の乳母の娘は、「侍従」と呼ばれて、長く姫君にお仕えしている。
掛け持ちで他のお屋敷でも働いて、自分と姫君のご生活をなんとか支えようとしていたの。
でも、もう一方の雇い主が亡くなって、貴重な収入源を失ってしまった。
このままでは自分も姫君も共倒れになりそうだから、急いで次の勤め先を決めなければと焦っていたわ。
姫君の母君の妹、つまり姫君の叔母は中流貴族と結婚しているのだけれど、ちょうど娘のためによい女房を探していたの。
<全然知らないお屋敷に勤めるより安心だろう>
と思って、侍従は姫君の叔母の屋敷へときどき通いはじめた。
姫君は叔母君と交流がない。
もちろん、「中流貴族なんかの妻になった叔母には興味がない」というわけではないのよ。
もともと引っ込み思案なご性格だから、親しくお手紙のやりとりをしようとはお思いにならないだけ。
叔母君は侍従に愚痴をこぼす。
「常陸の宮様のご正妻におなりになった姉君は、私を恥ずかしい妹と思っておられたのだよ。中流貴族ごときと結婚してしまったからね。それできっと姫君も、私を馬鹿にしておられるのだろう。貧しくて困っていらっしゃるようだけれど、そんなふうに思われているところへ経済的な支援をするのも気が引けるではないか」
この叔母君は、ご立派なご出身のわりに、上品な方ではないのよね。
身分の低い家に生まれた人は、高貴な人のまねをして、少なくとも表面上は上品ぶるでしょう?
でも、身分の高い家にお生まれになったのに落ちぶれた結婚をなさると、こんなふうになってしまうのかしら。
それともこんなご性格だから、落ちぶれたご結婚しかおできにならなかったのかしら。
<私の結婚が決まってからずっと、姉君はすっかりあきれて私を見下しておられた。それが今ではどうだろう。姉君のお生みになったお子は、宮家の姫君だというのにこんなにも貧乏でいらっしゃる。さぁ、このやんごとない姫君を、我が家の娘たちの女房にしてやろう。古臭いご性格のようだけれど、今どきの浮ついた女房よりも安心だ>
と叔母君は計画して、
「ときどき私どもの屋敷にもお越しくださいませ。娘たちがお琴の音をお聞きしたいと申しておりますから」
と姫君にお手紙を送った。
侍従も叔母の味方をする。
「ご両親はお亡くなりになって、兄君も山のお寺なのですから、姫様にはもうこの叔母君だけが頼りになるご親戚です。今からでも仲良くなさった方がよろしゅうございます。私がお供いたしますから、一度ご訪問なされませ」
と申し上げるけれど、姫君は叔母と打ち解けるおつもりなどない。
反抗しているとかではないのよ?
本当に、本当に、引っ込み思案なだけなの。
叔母君は、
<憎たらしい姪だ>
といらだっていた。
掛け持ちで他のお屋敷でも働いて、自分と姫君のご生活をなんとか支えようとしていたの。
でも、もう一方の雇い主が亡くなって、貴重な収入源を失ってしまった。
このままでは自分も姫君も共倒れになりそうだから、急いで次の勤め先を決めなければと焦っていたわ。
姫君の母君の妹、つまり姫君の叔母は中流貴族と結婚しているのだけれど、ちょうど娘のためによい女房を探していたの。
<全然知らないお屋敷に勤めるより安心だろう>
と思って、侍従は姫君の叔母の屋敷へときどき通いはじめた。
姫君は叔母君と交流がない。
もちろん、「中流貴族なんかの妻になった叔母には興味がない」というわけではないのよ。
もともと引っ込み思案なご性格だから、親しくお手紙のやりとりをしようとはお思いにならないだけ。
叔母君は侍従に愚痴をこぼす。
「常陸の宮様のご正妻におなりになった姉君は、私を恥ずかしい妹と思っておられたのだよ。中流貴族ごときと結婚してしまったからね。それできっと姫君も、私を馬鹿にしておられるのだろう。貧しくて困っていらっしゃるようだけれど、そんなふうに思われているところへ経済的な支援をするのも気が引けるではないか」
この叔母君は、ご立派なご出身のわりに、上品な方ではないのよね。
身分の低い家に生まれた人は、高貴な人のまねをして、少なくとも表面上は上品ぶるでしょう?
でも、身分の高い家にお生まれになったのに落ちぶれた結婚をなさると、こんなふうになってしまうのかしら。
それともこんなご性格だから、落ちぶれたご結婚しかおできにならなかったのかしら。
<私の結婚が決まってからずっと、姉君はすっかりあきれて私を見下しておられた。それが今ではどうだろう。姉君のお生みになったお子は、宮家の姫君だというのにこんなにも貧乏でいらっしゃる。さぁ、このやんごとない姫君を、我が家の娘たちの女房にしてやろう。古臭いご性格のようだけれど、今どきの浮ついた女房よりも安心だ>
と叔母君は計画して、
「ときどき私どもの屋敷にもお越しくださいませ。娘たちがお琴の音をお聞きしたいと申しておりますから」
と姫君にお手紙を送った。
侍従も叔母の味方をする。
「ご両親はお亡くなりになって、兄君も山のお寺なのですから、姫様にはもうこの叔母君だけが頼りになるご親戚です。今からでも仲良くなさった方がよろしゅうございます。私がお供いたしますから、一度ご訪問なされませ」
と申し上げるけれど、姫君は叔母と打ち解けるおつもりなどない。
反抗しているとかではないのよ?
本当に、本当に、引っ込み思案なだけなの。
叔母君は、
<憎たらしい姪だ>
といらだっていた。



