野いちご源氏物語 一五 蓬生(よもぎう)

せめて昔の和歌や物語がお好きなら、それで(ひま)つぶしをしたり心をなぐさめたりできるはずだけれど、姫君(ひめぎみ)はそういうものにご興味がない。
文化的なことにご興味がないとしても、お若い姫君なら、親戚(しんせき)や友人とお手紙のやりとりをするだけでも気分がまぎれるものじゃない?
でも姫君は、父宮(ちちみや)のご教育が厳格(げんかく)だったから、世間と関わろうとはなさらないの。
たまになさる暇つぶしといえば、古臭い物語の絵巻物(えまきもの)を古臭い(たな)から取り出してご覧になること。
和歌の巻物(まきもの)を広げていらっしゃることもあるけれど、なんだかぱっとしない巻物で、もう少し美しく仕立てたものでないと、ご覧になっていても楽しくないと思うのよね。

近ごろでは、出家(しゅっけ)していなくても、自宅で仏教(ぶっきょう)修行(しゅぎょう)をする人も多いみたい。
姫君はそれも気恥ずかしくてなさらないの。
誰が見ているわけでもないのに、数珠(じゅず)を手に取ることさえお嫌がりになる。
いかにも宮家(みやけ)の姫君らしい、古風(こふう)なお暮らしぶりでいらっしゃるわ。