常陸の宮様がお亡くなりになってから、お屋敷は荒れる一方だったけれど、ついに今は狐の住みかになってしまったの。
お庭のぞっとするような薄暗い木立のなかで、ふくろうが朝も夜も鳴く。
人気がないので、木の妖怪のようなものまで現れはじめた。
残っている数少ない女房たちの一人が、
「姫様、もう致し方ございません。風流好みの中流貴族が、こちらのお屋敷を気に入って譲ってほしいと申しております。いっそそうなさって、もっと明るいさっぱりしたところへお引越しなされませ。これ以上は私たちも耐えられません」
と申し上げる。
でも姫君は、そんなことを考えもなさらない。
「まぁ、なんてひどいことを言うの。この屋敷を売ったりしたら世間にどう思われるか。私が生きている間は、父宮のお形見を売ることなど許しません。たしかに荒れ果てて恐ろしい屋敷だけれど、両親との思い出がたくさん残っているのです。私はそれに救われながらなんとか生きているというのに」
とお泣きになる。
古めかしい立派な家具もたくさんあるのよ。
さすがは由緒正しい宮家だもの。
そういう品を集めるのが趣味の貴族などが、
「宮様が名人に作らせなさった、あの家具を売っていただけませんか」
と申し込んでくることもある。
姫君が経済的に困っておられることを知っているから、そんな図々しいことを言うのよね。
女房は、
<どこの家でもやっていることなのだから、こっそり売って生活の足しにしたい>
と思うけれど、姫君は厳しくお叱りになる。
「父宮が私のために作らせなさった家具ですよ。それをどうして身分の低い人の家の飾りにできますか。父宮のお考えと違うことは、誰にもさせません」
源氏の君が都をお離れになってから、姫君を訪問したり、お手紙をくださったりする人などいないのだけれど、唯一、姫君の兄君だけはたまにご訪問なさるの。
兄君は出家して僧侶になっていらっしゃる。
普段は山のお寺で修行なさっているのだけれど、用事があって都にいらっしゃったときには、ついでに姫君のお顔を見ていかれるわ。
でも、この兄君が姫君以上に変わり者というか、生活力のない方なのよね。
仏教の修行にはご熱心だけれど、姫君の面倒を見てあげようとか、お屋敷やお庭の手入れをしてあげようとか、そういう気配りはなさらないし、正直なところ経済力もお持ちでない。
そういうわけで、お庭は荒れ放題。
門には雑草のつるが巻き付いて、扉が開かなくなっている。
百歩譲ってそれだけなら、「頑丈な鍵の代わりになって安心ですね」と言えなくもないけれど、そのすぐ隣では塀がぼろぼろに壊れているのよ。
図々しい人がそこから飼い馬や飼い牛を入れて、お庭の草を食べさせている。
いったい宮様のお屋敷を何だと思っているのかしら。
台風がやって来たときには、渡り廊下は壊れて、召使い用の粗末な建物は屋根が吹き飛ばされてしまったわ。
「こんなところでお仕えしつづけることはできない」
と、誰もかれもが逃げていってしまった。
食事を作ることもできなくて、お屋敷全体がお気の毒な様子になっていく。
泥棒だって見向きもしないから、姫君のお部屋のなかだけは昔のままご立派よ。
人手不足で掃除する人もおらず、ほこりが積もってはいるけれど。
お庭のぞっとするような薄暗い木立のなかで、ふくろうが朝も夜も鳴く。
人気がないので、木の妖怪のようなものまで現れはじめた。
残っている数少ない女房たちの一人が、
「姫様、もう致し方ございません。風流好みの中流貴族が、こちらのお屋敷を気に入って譲ってほしいと申しております。いっそそうなさって、もっと明るいさっぱりしたところへお引越しなされませ。これ以上は私たちも耐えられません」
と申し上げる。
でも姫君は、そんなことを考えもなさらない。
「まぁ、なんてひどいことを言うの。この屋敷を売ったりしたら世間にどう思われるか。私が生きている間は、父宮のお形見を売ることなど許しません。たしかに荒れ果てて恐ろしい屋敷だけれど、両親との思い出がたくさん残っているのです。私はそれに救われながらなんとか生きているというのに」
とお泣きになる。
古めかしい立派な家具もたくさんあるのよ。
さすがは由緒正しい宮家だもの。
そういう品を集めるのが趣味の貴族などが、
「宮様が名人に作らせなさった、あの家具を売っていただけませんか」
と申し込んでくることもある。
姫君が経済的に困っておられることを知っているから、そんな図々しいことを言うのよね。
女房は、
<どこの家でもやっていることなのだから、こっそり売って生活の足しにしたい>
と思うけれど、姫君は厳しくお叱りになる。
「父宮が私のために作らせなさった家具ですよ。それをどうして身分の低い人の家の飾りにできますか。父宮のお考えと違うことは、誰にもさせません」
源氏の君が都をお離れになってから、姫君を訪問したり、お手紙をくださったりする人などいないのだけれど、唯一、姫君の兄君だけはたまにご訪問なさるの。
兄君は出家して僧侶になっていらっしゃる。
普段は山のお寺で修行なさっているのだけれど、用事があって都にいらっしゃったときには、ついでに姫君のお顔を見ていかれるわ。
でも、この兄君が姫君以上に変わり者というか、生活力のない方なのよね。
仏教の修行にはご熱心だけれど、姫君の面倒を見てあげようとか、お屋敷やお庭の手入れをしてあげようとか、そういう気配りはなさらないし、正直なところ経済力もお持ちでない。
そういうわけで、お庭は荒れ放題。
門には雑草のつるが巻き付いて、扉が開かなくなっている。
百歩譲ってそれだけなら、「頑丈な鍵の代わりになって安心ですね」と言えなくもないけれど、そのすぐ隣では塀がぼろぼろに壊れているのよ。
図々しい人がそこから飼い馬や飼い牛を入れて、お庭の草を食べさせている。
いったい宮様のお屋敷を何だと思っているのかしら。
台風がやって来たときには、渡り廊下は壊れて、召使い用の粗末な建物は屋根が吹き飛ばされてしまったわ。
「こんなところでお仕えしつづけることはできない」
と、誰もかれもが逃げていってしまった。
食事を作ることもできなくて、お屋敷全体がお気の毒な様子になっていく。
泥棒だって見向きもしないから、姫君のお部屋のなかだけは昔のままご立派よ。
人手不足で掃除する人もおらず、ほこりが積もってはいるけれど。



