野いちご源氏物語 一五 蓬生(よもぎう)

 常陸(ひたち)(みや)姫君(ひめぎみ)を覚えているかしら。そう、鼻の頭が赤い、ちょっと変わり者の姫君よ。
 父宮(ちちみや)が亡くなって心細くお暮らしだった十年ほど前に、源氏(げんじ)(きみ)が通われはじめた。源氏の君は正直なところ姫君を気に入らなかったけれど、経済的な支援(しえん)をしておあげになるようになった。
 姫君はそれでなんとか生活を成り立たせていらっしゃったのに、源氏の君は突然須磨(すま)へ行き、連絡が途絶(とだ)えてしまう。世の中が何もかも嫌になって都を離れたのだから、それほど愛していない女君(おんなぎみ)のことを忘れてしまわれるのも仕方がないかもしれない。
 しばらくは泣きながらそれなりの生活をしていた姫君だけれど、月日が()つほど貧しく(さび)しいありさまになっていかれた。

「あぁ、なんと残念な姫様の運命でしょう。せっかく源氏の君という神仏(しんぶつ)のような方が現れてくださったのに、政治家同士の()(ごと)のせいで、また頼る人のいない貧しいお暮らしに逆戻りですよ」
 長年お仕えしている(ろう)女房(にょうぼう)がぐちぐちと(なげ)く。以前なら()えられたことでも、なまじ源氏の君のおかげで(ひと)()みの生活をしてしまった後では、もう耐えられない。
 源氏の君の恋人の屋敷ということで、悪くない女房たちも勤めていたのだけれど、貧乏暮らしに耐えられず出ていってしまう。年を取って亡くなる人もいて、だんだんお仕えしている人の数が少なくなってきた。