野いちご源氏物語 一五 蓬生(よもぎう)

源氏(げんじ)(きみ)のところには、何かあるたびにいろいろな方から贈り物が届くのだけれど、源氏の君はそれを恋人たちにお配りになる。
常陸(ひたち)(みや)様の姫君(ひめぎみ)には、贈り物だけでなく、お屋敷の修理や手入れをする人を派遣(はけん)なさった。
あっという間にお屋敷は整ったけれど、源氏の君はあれからご訪問なさらない。
お手紙だけは丁寧にお書きになる。
二条(にじょう)(ひん)東隣(ひがしどなり)に、私が亡き上皇(じょうこう)様から相続(そうぞく)した屋敷があるのですが、今その屋敷を改築(かいちく)しています。工事が終わったらそちらへお引越しください。それまでに、よい女童(めのわらわ)などを(やと)っておかれますように」
などと、雑用係の女童のことまで心配してお書きになった。
姫君の老女房(ろうにょうぼう)たちは、これまでの貧しい暮らしががらりと変わっていくことによろこんでいる。

宮家(みやけ)の姫君らしい奥ゆかしさと美しい黒髪はお持ちだけれど、その他にこれといって(すぐ)れたところのない姫君を、源氏の君はどうしてこんなに大切にされるのかしら。
そういう運命、と言うしかないわね。
貧しいお屋敷でのお勤めに()えられなくなって辞めていった女房(にょうぼう)たちが、つぎつぎと戻ってくる。
やたらと威張(いば)っている中流貴族の屋敷なんかに勤めていた人たちは、この姫君のおっとりしたご性格に、
<やはりこちらの方が居心地がよい>
なんて思っていたみたい。

都に戻られた源氏の君は、苦労をされた分、思いやりがさらに深くなっていらっしゃる。
ご身分もいちだんと高くなられたから、
<あれほどご立派な方が、(こま)やかにお世話をなさっているという常陸の宮様の姫君は、さぞや特別な女性でいらっしゃるのだろう。お屋敷の手入れをお手伝いすれば、源氏の君のお目に()まるかもしれない>
と期待する人がたくさんいるの。
そういう人たちが張りきって働くものだから、姫君のお屋敷はみるみる美しくなっていった。