野いちご源氏物語 一五 蓬生(よもぎう)

 源氏(げんじ)(きみ)は待ちくたびれていらっしゃった。
「ずいぶん時間がかかったではないか。どうだった。雑草がひどく(しげ)って、昔の様子とはまったく違うが」
侍従(じじゅう)と呼ばれていた女房(にょうぼう)はおりませんでしたが、その叔母(おば)だという(ろう)女房(にょうぼう)に話を聞けました」
 姫君(ひめぎみ)は今もここで源氏の君をお待ちだとご報告する。
「こんな荒れたところで、どのようなお気持ちでお過ごしだったのだろう。そうとも知らず今までお訪ねしなかったとは」
 ()真面目(まじめ)な姫君だから、ふつうならとても我慢(がまん)できないことを耐えていらっしゃったに違いなかった。同情してご自分の冷たさを反省なさる。

「さて、どうしたものか。もう(しの)び歩きも難しい身分になってしまったから、今夜を(のが)せば次はいつお訪ねできるか分からない」
 源氏の君はお悩みになる。
<いきなり入っていくのは気が引ける。さりげない手紙を送ってからお訪ねしたいが、あの姫君はひどく引っ込み思案(じあん)でいらっしゃったな。手紙の返事にまごついて惟光が困ることになるだろう>
 惟光も同じように思ったらしい。
「お庭の雑草が(つゆ)()れておりました。お着物が濡れないように、まずは誰かに露を払わせましょう」
 動き出そうとする惟光を源氏の君はお止めになる。
「雑草を()み分けてあなたのところへ参りますよ。私を待っていてくださったのですから」
 (ひと)(ごと)をつぶやいて乗り物から降りてしまわれた。惟光は露を払いながら源氏の君をご案内する。木立(こだち)()まった雨粒(あまつぶ)時雨(しぐれ)のように落ちてくる。お(とも)が源氏の君の後ろから傘をさしかけた。それでも着物の(すそ)はひどく濡れてしまった。
 姫君の部屋の前の庭に通じる門は、昔はかろうじてぼろぼろな状態で存在していたのに、今は跡形(あとかた)もなくなっている。
<こんなところから入っていくのを誰かに見られたら格好が悪い>
 とお思いになるけれど、皮肉(ひにく)にも人気(ひとけ)はないのが(こう)都合(つごう)だった。