惟光がお庭に入っていく。
物音がするところへ行って女房に話しかけようと思うのだけれど、どこからも人の気配がしないの。
<誰も住んでいないのだろう>
と思って帰ろうとすると、簾がかすかに動いた。
ぞっとしたけれど、近くへ行って咳払いをしてみる。
すると、年老いた女の咳きこむ音がした後、
「誰じゃ」
という声が聞こえた。
惟光は怪しまれない程度に名乗って、
「侍従と呼ばれている女房にお会いしたいのですが」
と言った。
「侍従はもうここにはおりませんよ。一緒に働いていた私でよろしければお話を承りましょう」
と言う。
その声に惟光は聞き覚えがあったの。
<すっかり老けこんでしまっているが、この声は常陸の宮様の姫君に仕えていた女房だ>
と思い当たる。
お屋敷にはまだ数人の女房が残って姫君にお仕えしていた。
もう他のお屋敷では雇ってもらえないような、年老いた人たちばかりよ。
来客などまったくないお屋敷に、突然若くて優雅な貴族が現れたものだから、老女房たちは混乱している。
<狐が化けているのではないか>
と、簾の近くに集まってくるの。
惟光が聞く。
「失礼なことをお尋ねいたしますが、正確なところを知りたいのです。姫君は今もお独りでいらっしゃいますか。ここ三年の間に新しい恋人ができたということはございませんか。もし姫君が心変わりしておられないのでしたら、私の主人がお訪ねしたいと申しております。どう報告したらよいでしょう。正直にお話しください」
女房たちは年寄り臭く笑って、
「心変わりなどなさっていませんよ。この荒れ果てたお屋敷で、一途に源氏の君を待っておられます。どんなに苦しいご生活に耐えていらっしゃったかは、まぁ、この有り様をご覧になればお分かりでございましょう。うまくお伝えくださいませ。ずいぶん長生きしましたけれど、これまで拝見したこともないほどお気の毒なお暮らしぶりでしたよ」
と、姫君の暮らしぶりを話しはじめようとする。
惟光はあわてて、
「ええ、では、そのように主人にお伝えいたしましょう」
と、源氏の君の乗り物のところまで戻っていった。
物音がするところへ行って女房に話しかけようと思うのだけれど、どこからも人の気配がしないの。
<誰も住んでいないのだろう>
と思って帰ろうとすると、簾がかすかに動いた。
ぞっとしたけれど、近くへ行って咳払いをしてみる。
すると、年老いた女の咳きこむ音がした後、
「誰じゃ」
という声が聞こえた。
惟光は怪しまれない程度に名乗って、
「侍従と呼ばれている女房にお会いしたいのですが」
と言った。
「侍従はもうここにはおりませんよ。一緒に働いていた私でよろしければお話を承りましょう」
と言う。
その声に惟光は聞き覚えがあったの。
<すっかり老けこんでしまっているが、この声は常陸の宮様の姫君に仕えていた女房だ>
と思い当たる。
お屋敷にはまだ数人の女房が残って姫君にお仕えしていた。
もう他のお屋敷では雇ってもらえないような、年老いた人たちばかりよ。
来客などまったくないお屋敷に、突然若くて優雅な貴族が現れたものだから、老女房たちは混乱している。
<狐が化けているのではないか>
と、簾の近くに集まってくるの。
惟光が聞く。
「失礼なことをお尋ねいたしますが、正確なところを知りたいのです。姫君は今もお独りでいらっしゃいますか。ここ三年の間に新しい恋人ができたということはございませんか。もし姫君が心変わりしておられないのでしたら、私の主人がお訪ねしたいと申しております。どう報告したらよいでしょう。正直にお話しください」
女房たちは年寄り臭く笑って、
「心変わりなどなさっていませんよ。この荒れ果てたお屋敷で、一途に源氏の君を待っておられます。どんなに苦しいご生活に耐えていらっしゃったかは、まぁ、この有り様をご覧になればお分かりでございましょう。うまくお伝えくださいませ。ずいぶん長生きしましたけれど、これまで拝見したこともないほどお気の毒なお暮らしぶりでしたよ」
と、姫君の暮らしぶりを話しはじめようとする。
惟光はあわてて、
「ええ、では、そのように主人にお伝えいたしましょう」
と、源氏の君の乗り物のところまで戻っていった。



