野いちご源氏物語 一五 蓬生(よもぎう)

 四月になった。先に花散里(はなちるさと)(きみ)を思い出してお出かけになる。
 ここ数日の雨が今日もだらだら続いていたけれど、やっと降りきったらしい。よい月も出てきた。あちこちの恋人たちの家にこっそり通っていた昔を思い出すような夜だった。
 源氏の君の乗り物が、ひどく荒れた屋敷の隣を通りかかる。
 (へい)(くず)れ、庭の木立(こだち)は森のようになっている。大きな松に(ふじ)(つる)がからんで、()れる花を月光が照らしていた。
 かすかに(ただよ)ってきた花の(にお)いに源氏の君は外をご覧になった。
<見覚えのある木立だ>
 はっとお気づきになる。
「ここは亡き常陸(ひたち)(みや)のお屋敷ではなかったか」
 お(とも)惟光(これみつ)にお尋ねになった。
「さようでございます」
「姫君はまだここにお住まいなのだろうか。都に戻ったご挨拶(あいさつ)に上がらなければならないが、大げさにはしたくない。このついでに(うかが)おう。ただし姫君はすでに他へ移られた可能性もある。人違いにならないようによく確かめてから、私が来ていることを伝えよ」

 姫君は雨漏(あまも)りする縁側(えんがわ)にぼんやりお座りになっていた。雨続きでご気分が滅入(めい)っている上、昼寝の夢で亡き父宮(ちちみや)にお会いになった。変わり者の姫君も、さすがに人並(ひとな)みに感傷(かんしょう)的になっていらっしゃる。
「父宮が恋しくて涙をこぼしておりますのに、さらに屋根から雨まで落ちてまいります」
 源氏の君はこのお気の毒なところにちょうどお越しになったのだった。