四月になっても、まだご訪問なさっていない。
先に花散里の姫君を思い出して、
<経済的な支援はずっとしているが、都に戻ってきたのだから、やはり顔を見せてあげなければ>
と、お出かけになる。
雨が少し降って、良い月が出た。
あちこちの恋人たちのところへこっそりと通っていた昔を思い出すような、雰囲気のある夕月夜よ。
乗り物から外をご覧になると、とんでもなく荒れた屋敷がある。
塀は崩れて、庭の木立が森のようになっているの。
<見覚えのある松だ。藤がからんで美しく咲いている>
とお目を留めて、源氏の君はお気づきになった。
お供していた惟光を呼んでお尋ねになる。
「ここは亡き常陸の宮様のお屋敷ではなかったか」
「さようでございます」
と惟光がお返事すると、
「姫君はまだここにお住まいなのだろうか。都に戻ったご挨拶に上がらなければならないが、おおげさにはしたくない。なかの様子を見てまいれ。姫君は引っ越されて、別人が住んでいる可能性もある。よくよく確かめてから、私が来ていることを伝えよ」
とお命じになった。
姫君は雨漏りする縁側で、ぼんやりとしておられた。
雨がつづいて気分が滅入っていらっしゃるところに、その日は昼寝の夢に亡き父宮が出ておいでになったの。
変わり者の姫君も、さすがに人並みに感情が揺れる。
「お父様、お父様。お父様が恋しくて涙をこぼしておりますのに、さらに屋根から雨まで落ちてまいります」
先に花散里の姫君を思い出して、
<経済的な支援はずっとしているが、都に戻ってきたのだから、やはり顔を見せてあげなければ>
と、お出かけになる。
雨が少し降って、良い月が出た。
あちこちの恋人たちのところへこっそりと通っていた昔を思い出すような、雰囲気のある夕月夜よ。
乗り物から外をご覧になると、とんでもなく荒れた屋敷がある。
塀は崩れて、庭の木立が森のようになっているの。
<見覚えのある松だ。藤がからんで美しく咲いている>
とお目を留めて、源氏の君はお気づきになった。
お供していた惟光を呼んでお尋ねになる。
「ここは亡き常陸の宮様のお屋敷ではなかったか」
「さようでございます」
と惟光がお返事すると、
「姫君はまだここにお住まいなのだろうか。都に戻ったご挨拶に上がらなければならないが、おおげさにはしたくない。なかの様子を見てまいれ。姫君は引っ越されて、別人が住んでいる可能性もある。よくよく確かめてから、私が来ていることを伝えよ」
とお命じになった。
姫君は雨漏りする縁側で、ぼんやりとしておられた。
雨がつづいて気分が滅入っていらっしゃるところに、その日は昼寝の夢に亡き父宮が出ておいでになったの。
変わり者の姫君も、さすがに人並みに感情が揺れる。
「お父様、お父様。お父様が恋しくて涙をこぼしておりますのに、さらに屋根から雨まで落ちてまいります」



