野いちご源氏物語 一五 蓬生(よもぎう)

冬が深まって雪や(あられ)が降るようになった。
姫君(ひめぎみ)のお屋敷のお庭は雑草だらけだから、日陰(ひかげ)になってしまって雪がとけないの。
出入りする人もいないから、まるで北国(きたぐに)の雪山のようにこんもりとしている。
姫君はそれをぼんやりとご覧になっていたわ。
<こんなとき侍従(じじゅう)がいてくれたら、ささいなことをあれこれ話して、泣いたり笑ったりできたのに>
と悲しくお思いになる。
ご寝室にお入りになると、掃除(そうじ)をする人がいないからすっかり(ほこり)っぽくなっている。
寒くてさみしくて、姫君は侍従のことを恋しく思い出していらっしゃるの。

そのころ源氏(げんじ)(きみ)は、都にお戻りになって三か月ほど。
まだ周囲が騒がしくて、それほど特別でもない女君(おんなぎみ)のところへはご訪問なさるお(ひま)がない。
<そういえば、あの常陸(ひたち)(みや)様の姫君は、まだ生きていらっしゃるだろうか>
と、うっすら思い出されることはあっても、訪れてみようとまではお思いにならないの。
そのまま年が暮れていったわ。