野いちご源氏物語 一四 澪標(みおつくし)

明石(あかし)入道(にゅうどう)乳母(めのと)歓迎(かんげい)して、源氏(げんじ)(きみ)気配(きぐば)りに恐縮(きょうしゅく)しながらよろこんだ。
都の方角を向いて(おが)んでいるほどなの。
<ここまでしてくださるということは、源氏の君も姫の将来に大きな期待をしていらっしゃるということだ。そんな大切なお子をお育てしていると思うと、恐ろしいような気さえする>
と震える。

乳母は小さな姫君(ひめぎみ)を拝見して驚いた。
不吉(ふきつ)なほど美しくていらっしゃるの。
<源氏の君が大切にお育てしたいとお思いになるのも当然だ>
と、都を離れた悲しみも忘れてしまった。
にこにこしながら姫君をあやしている。

明石(あかし)(きみ)は、源氏の君が都に戻られてからすっかり気落ちして弱っていらっしゃった。
でも、源氏の君が乳母を選んだり、姫君への贈り物をくださったりしたことで、少しはなぐさめられる気がなさった。
力をふりしぼって使者(ししゃ)をもてなそうとなさる。
使者は早く都に戻って源氏の君にご報告をしなければならないの。
明石の君は源氏の君へ短いお返事をお書きになった。
女手(おんなで)ひとつでお育てするには限界がございます。どうかあなた様の(たの)もしいお手で包んでやってくださいませ」
このお返事をお読みになると、源氏の君はご自分でもわけが分からないほど、明石の姫君のことが気になってしまわれる。