翌年二月、東宮様がご元服なさった。
まだ十一歳でいらっしゃるけれど、お背も高く、大人びたお美しさがおありになるわ。
東宮様と源氏の君はうりふたつでいらっしゃるから、儀式に参列なさった方々は、おふたりのお美しさをほめそやしている。
その評判に冷や汗をかいておられるのは、入道の宮様。
東宮様の本当の父親は源氏の君だということが、いつか世間に気づかれるのではないかと心配していらっしゃるの。
帝は元服なさった東宮様のご立派なお姿に安心なさって、帝の位をお譲りになることをそっとお伝えになる。
その月のうちに帝は引退なさって上皇に、東宮様は帝におなりになった。
新しい東宮には承香殿の女御様がお生みになった皇子がお立ちになった。
急なことだったので、皇太后様はあわてて上皇様をお責めになる。
上皇様は、
「つまらない身になってしまいましたが、母君にゆっくりお目にかかれるようになりましたよ。これからはふつうの皇子のように、気軽にお見舞いにまいります」
とおなぐさめになる。
新しい帝のもと、内裏は華やかな雰囲気に包まれていたわ。
人事異動が行われて、源氏の君は内大臣にご出世なさった。
新しい帝はまだお若いから、補佐するために「摂政」というお役職につく人が必要なの。
源氏の君は都に戻られてから、帝の政治の補佐をしていらっしゃったのだから、そのまま新しい帝の摂政におなりになると世間は思っていた。
でも源氏の君は、
「私ではまだ力不足でございます。すでに引退しておられますが、前左大臣様こそ摂政にふさわしいと存じます」
とおっしゃる。
前左大臣様というのは、源氏の君の亡き奥様の父君ね。
源氏の君が須磨へ行かれる少し前、右大臣様が内裏で威張っておられることに嫌気がさして、政治家を引退してしまわれた。
それからは、姫君の遺された孫君をのんびりと育てていらっしゃったの。
「病気を理由に引退した身でございますし、最近ではいよいよ頭も体も言うことを聞きません。とても摂政のお役目など果たせませんでしょう」
と、お引き受けなさらない。
内裏も世間も、
「前左大臣様はすぐれた政治家でいらっしゃった。一時はご病気で引退したとしても、いろいろな状況が変われば、当然復帰なさってもおかしくない。外国ではそういう方こそがご立派だと申すではないか」
と、ご復帰を歓迎なさっている。
前左大臣様は断りつづけられなくなって、貴族としては最高位の太政大臣として復帰なさった。
お年は六十三歳でいらっしゃる。
太政大臣様はかつての華やぎを取り戻されて、沈んでおられたご子息たちも次々にご出世なさる。
源氏の君の親友でいらっしゃる宰相中将様は権中納言にご出世なさった。
権中納言様には十二歳の姫君がいらっしゃって、帝とご結婚させようと大切に育てておられるわ。
他にもお子がたくさんいらっしゃることを、源氏の君はうらやましくお思いになる。
姫君が入内して皇子をお生みになって、もしその皇子が帝におなりになれば、権中納言様は政治の権力を握られる。
そうなったら源氏の君でも負けてしまわれるでしょうね。
源氏の君のお子は、奥様が遺していかれた若君と、明石の君のお腹にいるお子。
それとこれは絶対に秘密だけれど、帝は源氏の君と入道の宮様のお子。
太政大臣家でお育ちの若君は、八歳でいらっしゃる。
とても美しいお子で、内裏で見習いとして働いていらっしゃるの。
そのかわいらしくも立派なお姿をご覧になると、祖母君も祖父君の太政大臣様も、姫君が若くしてお亡くなりになったことがあらためてお悲しい。
でも、源氏の君がしょっちゅうご訪問なさるおかげで、そのお悲しみから救われていらっしゃった。
若君の乳母たちなどは、源氏の君が都にお戻りになる日を信じて、太政大臣家に仕えつづけていたの。
源氏の君はそういう人たちにも感謝して大切になさるから、
<仕えつづけた甲斐があった>
と幸せに思っていたようね。
二条の院でも、源氏の君を見限らずに仕えつづけていた女房たちを大切になさる。
ひそかにかわいがっていらっしゃった女房たちを満足させてやろうとお思いになるので、よその女君をご訪問なさるお暇はないの。
ただ、
<頼る人がいない女君たちのことは心配だ。一か所に集めてお世話してさしあげよう>
とお考えになる。
ちょうど二条の院の東隣に、源氏の君が亡き上皇様から相続なさったお屋敷があるの。
そこを美しく改築して、花散里の姫君のような心細い方たちを集めようと計画していらっしゃる。
まだ十一歳でいらっしゃるけれど、お背も高く、大人びたお美しさがおありになるわ。
東宮様と源氏の君はうりふたつでいらっしゃるから、儀式に参列なさった方々は、おふたりのお美しさをほめそやしている。
その評判に冷や汗をかいておられるのは、入道の宮様。
東宮様の本当の父親は源氏の君だということが、いつか世間に気づかれるのではないかと心配していらっしゃるの。
帝は元服なさった東宮様のご立派なお姿に安心なさって、帝の位をお譲りになることをそっとお伝えになる。
その月のうちに帝は引退なさって上皇に、東宮様は帝におなりになった。
新しい東宮には承香殿の女御様がお生みになった皇子がお立ちになった。
急なことだったので、皇太后様はあわてて上皇様をお責めになる。
上皇様は、
「つまらない身になってしまいましたが、母君にゆっくりお目にかかれるようになりましたよ。これからはふつうの皇子のように、気軽にお見舞いにまいります」
とおなぐさめになる。
新しい帝のもと、内裏は華やかな雰囲気に包まれていたわ。
人事異動が行われて、源氏の君は内大臣にご出世なさった。
新しい帝はまだお若いから、補佐するために「摂政」というお役職につく人が必要なの。
源氏の君は都に戻られてから、帝の政治の補佐をしていらっしゃったのだから、そのまま新しい帝の摂政におなりになると世間は思っていた。
でも源氏の君は、
「私ではまだ力不足でございます。すでに引退しておられますが、前左大臣様こそ摂政にふさわしいと存じます」
とおっしゃる。
前左大臣様というのは、源氏の君の亡き奥様の父君ね。
源氏の君が須磨へ行かれる少し前、右大臣様が内裏で威張っておられることに嫌気がさして、政治家を引退してしまわれた。
それからは、姫君の遺された孫君をのんびりと育てていらっしゃったの。
「病気を理由に引退した身でございますし、最近ではいよいよ頭も体も言うことを聞きません。とても摂政のお役目など果たせませんでしょう」
と、お引き受けなさらない。
内裏も世間も、
「前左大臣様はすぐれた政治家でいらっしゃった。一時はご病気で引退したとしても、いろいろな状況が変われば、当然復帰なさってもおかしくない。外国ではそういう方こそがご立派だと申すではないか」
と、ご復帰を歓迎なさっている。
前左大臣様は断りつづけられなくなって、貴族としては最高位の太政大臣として復帰なさった。
お年は六十三歳でいらっしゃる。
太政大臣様はかつての華やぎを取り戻されて、沈んでおられたご子息たちも次々にご出世なさる。
源氏の君の親友でいらっしゃる宰相中将様は権中納言にご出世なさった。
権中納言様には十二歳の姫君がいらっしゃって、帝とご結婚させようと大切に育てておられるわ。
他にもお子がたくさんいらっしゃることを、源氏の君はうらやましくお思いになる。
姫君が入内して皇子をお生みになって、もしその皇子が帝におなりになれば、権中納言様は政治の権力を握られる。
そうなったら源氏の君でも負けてしまわれるでしょうね。
源氏の君のお子は、奥様が遺していかれた若君と、明石の君のお腹にいるお子。
それとこれは絶対に秘密だけれど、帝は源氏の君と入道の宮様のお子。
太政大臣家でお育ちの若君は、八歳でいらっしゃる。
とても美しいお子で、内裏で見習いとして働いていらっしゃるの。
そのかわいらしくも立派なお姿をご覧になると、祖母君も祖父君の太政大臣様も、姫君が若くしてお亡くなりになったことがあらためてお悲しい。
でも、源氏の君がしょっちゅうご訪問なさるおかげで、そのお悲しみから救われていらっしゃった。
若君の乳母たちなどは、源氏の君が都にお戻りになる日を信じて、太政大臣家に仕えつづけていたの。
源氏の君はそういう人たちにも感謝して大切になさるから、
<仕えつづけた甲斐があった>
と幸せに思っていたようね。
二条の院でも、源氏の君を見限らずに仕えつづけていた女房たちを大切になさる。
ひそかにかわいがっていらっしゃった女房たちを満足させてやろうとお思いになるので、よその女君をご訪問なさるお暇はないの。
ただ、
<頼る人がいない女君たちのことは心配だ。一か所に集めてお世話してさしあげよう>
とお考えになる。
ちょうど二条の院の東隣に、源氏の君が亡き上皇様から相続なさったお屋敷があるの。
そこを美しく改築して、花散里の姫君のような心細い方たちを集めようと計画していらっしゃる。



