このお話は源氏の君のお耳にも入った。
<上皇様のご希望を知ってしまった以上、それを無視して姫宮を帝に入内させるのは恐れ多い。しかし、姫宮のお美しさは惜しい。やはり帝にこそ差し上げたいが>
とお迷いになって、入道の宮様にご相談なさったの。
「亡き六条御息所の姫宮の今後について、上皇様からご結婚のご希望があるのですが、私といたしましては帝に入内なさった方がよろしいのではないかと悩んでおります。亡き御息所は、重々しくたしなみ深い方でいらっしゃいました。私の浮気心のせいでひどくお苦しめしてしまったことを後悔しております。私のことを恨んでいらっしゃったでしょうに、ご遺言では姫宮のことを頼んでいかれたのです。罪滅ぼしのためにも、姫宮のお幸せなご結婚のお世話をしたいと思っておりますが、ご身分の高い方ですので、お相手は限られてまいります。上皇様か、帝か。帝は大人びておられますが、まだ十一歳でいらっしゃいますので、分別のある年上のお妃様がいらっしゃった方がよろしいようにも思われます。いかがでしょうか。帝の母君でいらっしゃる入道の宮様のお考えをお聞かせいただけましたら」
とおっしゃる。
入道の宮様は、
「よいお考えと存じます。上皇様のご希望に背くのは恐れ多く申し訳のないことですが、『帝に入内させたい』という御息所のご遺言があったことにして、入内させてしまえばよろしいでしょう。上皇様のご希望には気づかなかったということになされませ。上皇様は近ごろは仏教の修行にご熱心でいらっしゃいますから、姫宮が帝とご結婚なさるとお聞きになっても、それほどご不快にはお思いにならないと存じます」
とお答えになった。
「でしたら、母君でいらっしゃる宮様から入内のお誘いがあったということにいたしまして、私はそのご伝言役だけをさせていただきましょう。あちらこちらに慎重に気を遣っているつもりでおりますが、世間は上皇様と私は仲が悪いと噂するのでしょうね」
と、源氏の君は少し気まずそうなお顔をなさる。
それでも内心では、入道の宮様が姫宮の入内に好意的で、応援してくださりそうなことを頼もしく思っていらっしゃった。
<私の娘という扱いで入内させたい。六条のお屋敷からではなく、二条の院から送りださなければ>
と計画していらっしゃる。
紫の上には、
「亡き六条御息所の姫宮は、私がお世話して帝とご結婚なさることになりました。入内までの間、しばらくこの二条の院でお暮らしいただこうと思う。ぜひご挨拶にお上がりなさい。あなたと同じくらいのお年でいらっしゃるから、お話が合うでしょう」
と報告しておかれた。
紫の上はうれしくお思いになって、姫宮のお引越しのご準備を急がせなさったわ。
入道の宮様は、帝のお妃競争が始まりつつあるなか、御息所の姫宮だけを応援なさるわけにはいかない。
宮様の兄宮でいらっしゃる兵部卿の宮様も、姫君を入内させようとなさっているのだもの。
<源氏の君は兄宮の姫君をどのようにお扱いになるだろう。兄宮のことを恨んでいらっしゃるから、姫君のこともお妃として尊重はなさらないだろう>
と心苦しく思っていらっしゃった。
権中納言様の姫君は、すでに入内して弘徽殿でお暮らしになっている。
祖父君の太政大臣様の娘という扱いで入内なさったから、内裏でのお立場がとてもお強い。
帝は同年代の弘徽殿の女御様をお気に召して、よいお遊び相手になさっているの。
入道の宮様はそれをご覧になって帝におっしゃる。
「ままごとのような無邪気なご夫婦でいらっしゃいますこと。まもなく入内なさる私の兄宮の姫君も、こちらの女御様と同じくらいのお年でいらっしゃいますからね。やはり他に、帝をしっかりお支えできる年上の方が入内なさるのは喜ばしいことです」
そうお教えになるので、帝は少し緊張しておられる。
源氏の君は政治の面でも個人的なことがらでも、丁寧に帝の補佐をしていらっしゃる。
それはありがたく頼りになることだけれど、入道の宮様としては、女性の補佐役も必要だと思っていらっしゃった。
ご自分はご病気がちだから、帝に付きっきりで補佐することはおできにならないの。
ご自分の代わりに帝が頼りにできる女性として、御息所の姫宮はぴったりだと期待していらっしゃる。
<上皇様のご希望を知ってしまった以上、それを無視して姫宮を帝に入内させるのは恐れ多い。しかし、姫宮のお美しさは惜しい。やはり帝にこそ差し上げたいが>
とお迷いになって、入道の宮様にご相談なさったの。
「亡き六条御息所の姫宮の今後について、上皇様からご結婚のご希望があるのですが、私といたしましては帝に入内なさった方がよろしいのではないかと悩んでおります。亡き御息所は、重々しくたしなみ深い方でいらっしゃいました。私の浮気心のせいでひどくお苦しめしてしまったことを後悔しております。私のことを恨んでいらっしゃったでしょうに、ご遺言では姫宮のことを頼んでいかれたのです。罪滅ぼしのためにも、姫宮のお幸せなご結婚のお世話をしたいと思っておりますが、ご身分の高い方ですので、お相手は限られてまいります。上皇様か、帝か。帝は大人びておられますが、まだ十一歳でいらっしゃいますので、分別のある年上のお妃様がいらっしゃった方がよろしいようにも思われます。いかがでしょうか。帝の母君でいらっしゃる入道の宮様のお考えをお聞かせいただけましたら」
とおっしゃる。
入道の宮様は、
「よいお考えと存じます。上皇様のご希望に背くのは恐れ多く申し訳のないことですが、『帝に入内させたい』という御息所のご遺言があったことにして、入内させてしまえばよろしいでしょう。上皇様のご希望には気づかなかったということになされませ。上皇様は近ごろは仏教の修行にご熱心でいらっしゃいますから、姫宮が帝とご結婚なさるとお聞きになっても、それほどご不快にはお思いにならないと存じます」
とお答えになった。
「でしたら、母君でいらっしゃる宮様から入内のお誘いがあったということにいたしまして、私はそのご伝言役だけをさせていただきましょう。あちらこちらに慎重に気を遣っているつもりでおりますが、世間は上皇様と私は仲が悪いと噂するのでしょうね」
と、源氏の君は少し気まずそうなお顔をなさる。
それでも内心では、入道の宮様が姫宮の入内に好意的で、応援してくださりそうなことを頼もしく思っていらっしゃった。
<私の娘という扱いで入内させたい。六条のお屋敷からではなく、二条の院から送りださなければ>
と計画していらっしゃる。
紫の上には、
「亡き六条御息所の姫宮は、私がお世話して帝とご結婚なさることになりました。入内までの間、しばらくこの二条の院でお暮らしいただこうと思う。ぜひご挨拶にお上がりなさい。あなたと同じくらいのお年でいらっしゃるから、お話が合うでしょう」
と報告しておかれた。
紫の上はうれしくお思いになって、姫宮のお引越しのご準備を急がせなさったわ。
入道の宮様は、帝のお妃競争が始まりつつあるなか、御息所の姫宮だけを応援なさるわけにはいかない。
宮様の兄宮でいらっしゃる兵部卿の宮様も、姫君を入内させようとなさっているのだもの。
<源氏の君は兄宮の姫君をどのようにお扱いになるだろう。兄宮のことを恨んでいらっしゃるから、姫君のこともお妃として尊重はなさらないだろう>
と心苦しく思っていらっしゃった。
権中納言様の姫君は、すでに入内して弘徽殿でお暮らしになっている。
祖父君の太政大臣様の娘という扱いで入内なさったから、内裏でのお立場がとてもお強い。
帝は同年代の弘徽殿の女御様をお気に召して、よいお遊び相手になさっているの。
入道の宮様はそれをご覧になって帝におっしゃる。
「ままごとのような無邪気なご夫婦でいらっしゃいますこと。まもなく入内なさる私の兄宮の姫君も、こちらの女御様と同じくらいのお年でいらっしゃいますからね。やはり他に、帝をしっかりお支えできる年上の方が入内なさるのは喜ばしいことです」
そうお教えになるので、帝は少し緊張しておられる。
源氏の君は政治の面でも個人的なことがらでも、丁寧に帝の補佐をしていらっしゃる。
それはありがたく頼りになることだけれど、入道の宮様としては、女性の補佐役も必要だと思っていらっしゃった。
ご自分はご病気がちだから、帝に付きっきりで補佐することはおできにならないの。
ご自分の代わりに帝が頼りにできる女性として、御息所の姫宮はぴったりだと期待していらっしゃる。



