源氏の君は驚いてお訪ねになる。もう恋人関係ではないけれど、風流な手紙のやりとりができる貴重なお相手だと思っていらっしゃったから、ご出家は残念だった。
優しいお見舞いをおっしゃる。御息所はもう出家なさった身なので、ついたて越しに直接返事をなさった。ひどく衰弱したご様子だった。
<私の誠意をついにお分かりいただけなかった>
源氏の君は悔しくてお泣きになる。そこまで悲しんでくださるのかと御息所のお心は震えた。ご遺言のようなことをおっしゃる。
「私が死んだら姫宮はひとりぼっちになってしまいます。どうか世話をしてあげてください。私のような頼りない母親でも、もう少し長く生きられましたら、物事の分別がつくまでお世話しようと思っていたのですが」
消えてしまいそうにか弱くお泣きになる。
「そのようなことをおっしゃらずとも、私が姫宮をお見捨てすることなどありません。できる限り後見させていただきましょう。ご心配なさいますな」
「いいえ、難しいことだと分かっております。たとえ実の父親が健在でも、母親に先立たれた娘は不幸になりやすいものです。ましてあなたにお願いすれば、嫌なことを申しますけれど、姫宮を恋人のひとりになさるのではないかと心配なのです。どうかそれだけはなさいませんように。男女関係の苦労をさせたくないという私の気持ちをお分かりください」
御息所は必死におっしゃる。
<ずいぶんはっきりと釘を刺されてしまった>
苦々しく思いながらも源氏の君はお慰めになる。
「私もそれなりに苦労をした大人ですよ。いつまでも浮気者だとお思いになっては困ります。長生きなさってください。いずれお分かりいただけるはずですから」
外が暗くなって、部屋に灯りがともされた。
源氏の君がついたての向こうをそっとお覗きになると、尼姿の御息所が物に寄りかかって座っていらっしゃる。絵に描いたようなお美しさだった。
少し離れたところには姫宮がいらっしゃるらしい。よくよく目を凝らされると、宮は悲しそうに頬杖をおつきになっている。
<美しい。お髪も顔立ちも上品で気高いが、愛くるしい感じもする。手に入れたい。いや、たった今御息所に止められたばかりではないか>
あわてて思い返される。
「苦しくなってまいりました。恐れ多うございますから、どうぞもうお引き取りくださいませ」
御息所は女房に支えられながら横になられた。
「私がお見舞いに伺って、かえってお疲れになってしまったのでしょうか。どのようなお具合ですか」
源氏の君はついたての奥を覗こうとなさる。
「いけません、見苦しい病人の姿をしておりますから。最期の最期にお越しいただけたということは、私たちのご縁が浅くなかったということでしょう。どうか姫宮をよろしくお願いいたします。胸のうちをお話しできて、これでもういつ死んでも安心でございます」
「私にまでご遺言をいただき、ありがたくはありますが悲しいことです。亡き桐壺院は姫宮の親代わりをしていらっしゃいました。私にとって姫宮は妹ということになりますから、大切にお世話させていただきましょう。この年になっても世話する娘がいないことを、ちょうど寂しく思っていたところなのです」
源氏の君は明石の姫君の存在をまだ公表していらっしゃらない。それでこんなふうに言ってお帰りになった。それからはたびたびお見舞いをなさる。
優しいお見舞いをおっしゃる。御息所はもう出家なさった身なので、ついたて越しに直接返事をなさった。ひどく衰弱したご様子だった。
<私の誠意をついにお分かりいただけなかった>
源氏の君は悔しくてお泣きになる。そこまで悲しんでくださるのかと御息所のお心は震えた。ご遺言のようなことをおっしゃる。
「私が死んだら姫宮はひとりぼっちになってしまいます。どうか世話をしてあげてください。私のような頼りない母親でも、もう少し長く生きられましたら、物事の分別がつくまでお世話しようと思っていたのですが」
消えてしまいそうにか弱くお泣きになる。
「そのようなことをおっしゃらずとも、私が姫宮をお見捨てすることなどありません。できる限り後見させていただきましょう。ご心配なさいますな」
「いいえ、難しいことだと分かっております。たとえ実の父親が健在でも、母親に先立たれた娘は不幸になりやすいものです。ましてあなたにお願いすれば、嫌なことを申しますけれど、姫宮を恋人のひとりになさるのではないかと心配なのです。どうかそれだけはなさいませんように。男女関係の苦労をさせたくないという私の気持ちをお分かりください」
御息所は必死におっしゃる。
<ずいぶんはっきりと釘を刺されてしまった>
苦々しく思いながらも源氏の君はお慰めになる。
「私もそれなりに苦労をした大人ですよ。いつまでも浮気者だとお思いになっては困ります。長生きなさってください。いずれお分かりいただけるはずですから」
外が暗くなって、部屋に灯りがともされた。
源氏の君がついたての向こうをそっとお覗きになると、尼姿の御息所が物に寄りかかって座っていらっしゃる。絵に描いたようなお美しさだった。
少し離れたところには姫宮がいらっしゃるらしい。よくよく目を凝らされると、宮は悲しそうに頬杖をおつきになっている。
<美しい。お髪も顔立ちも上品で気高いが、愛くるしい感じもする。手に入れたい。いや、たった今御息所に止められたばかりではないか>
あわてて思い返される。
「苦しくなってまいりました。恐れ多うございますから、どうぞもうお引き取りくださいませ」
御息所は女房に支えられながら横になられた。
「私がお見舞いに伺って、かえってお疲れになってしまったのでしょうか。どのようなお具合ですか」
源氏の君はついたての奥を覗こうとなさる。
「いけません、見苦しい病人の姿をしておりますから。最期の最期にお越しいただけたということは、私たちのご縁が浅くなかったということでしょう。どうか姫宮をよろしくお願いいたします。胸のうちをお話しできて、これでもういつ死んでも安心でございます」
「私にまでご遺言をいただき、ありがたくはありますが悲しいことです。亡き桐壺院は姫宮の親代わりをしていらっしゃいました。私にとって姫宮は妹ということになりますから、大切にお世話させていただきましょう。この年になっても世話する娘がいないことを、ちょうど寂しく思っていたところなのです」
源氏の君は明石の姫君の存在をまだ公表していらっしゃらない。それでこんなふうに言ってお帰りになった。それからはたびたびお見舞いをなさる。



