野いちご源氏物語 一四 澪標(みおつくし)

皇太后(こうたいごう)様はまだご病気が重いままでいらっしゃる。
<とうとう源氏(げんじ)(きみ)を消すことができなかった>
と苦々しくお思いになっていた。
(みかど)は、上皇(じょうこう)様のご遺言(ゆいごん)を破ったことを恐れて苦しんでおられたけれど、源氏の君を元の地位(ちい)に戻してからは、心安らかでいらっしゃる。

ときどき悪くなっていたお目の状態も近ごろは落ち着いている。
でも、
<私はもうそれほど長くは生きられないだろう。心細いことだ>
とお思いになって、しょっちゅう源氏の君を内裏(だいり)にお呼びになるの。
源氏の君を大切な後見(こうけん)役とお思いになって、政治のことも本音でご相談なさるから、上皇様のご遺言どおりになっていたわ。
世間では、政治などよくわからない人たちまで、おふたりのよいご関係に安心していた。