野いちご源氏物語 一四 澪標(みおつくし)

 さて、(みかど)(だい)()わりがあったので、伊勢(いせ)神宮(じんぐう)斎宮(さいぐう)も交代なさる。斎宮は(はは)御息所(みやすんどころ)と六年ぶりに都へお戻りになった。
 源氏(げんじ)(きみ)は、この六条(ろくじょう)の御息所を以前と同じように気にかけていらっしゃる。手紙で丁寧に誠意をお見せになるけれど、御息所は恋人関係に戻るおつもりはない。
<昔でさえご冷淡(れいたん)な人だった。さらに年を取ってしまった今、あの人が私を真剣に愛してくださるとは思えない>
 源氏の君にもそれは伝わっている。以前ならそれでも口説いただろうけれど、今は無理をなさらない。
 ご自分が心変わりしてまた御息所を傷つけてしまうかもしれないし、内大臣(ないだいじん)というご身分は(しの)び歩きには重すぎる。ただ、前斎宮(さいぐう)姫宮(ひめみや)に対しては、
<もう二十歳におなりのはずだ。どんな大人の女性になられただろう>
 とお心が動いた。

 御息所と姫宮は六条(ろくじょう)の屋敷にお戻りになっている。よい雰囲気(ふんいき)に修理して整えられているので、優雅(ゆうが)なお暮らしだった。
 あいかわらず御息所はご趣味がよい。美しく教養のある女房(にょうぼう)をそろえていらっしゃる。それを目当てに貴族たちが集まってきて、母娘だけのお(さび)しさもまぎれる。
 しかししばらくすると、御息所は重い病気になってしまわれた。伊勢では仏教から離れたご生活だったから、(ばち)が当たるのではと心配なさる。来世(らいせ)の幸せのために出家(しゅっけ)して(あま)におなりになった。