野いちご源氏物語 一四 澪標(みおつくし)

明石(あかし)(きみ)はしばらく難波(なんば)にいらっしゃって、源氏(げんじ)(きみ)が都へ出発なさった翌日に、住吉(すみよし)大社(たいしゃ)へお参りなさった。
<わざわざ日にちをずらして、源氏の君の華やかなご参詣(さんけい)の後にひっそりとお参りをしなければならない。これが私の身分なのだ>
とお思いになると、よけいにご自分の境遇(きょうぐう)(くや)しくなってしまわれる。

源氏の君はまだ都にお着きになる前に、明石の君にお手紙をお書きになった。
「近いうちにあなたと姫を都に迎えたい」
とある。
いかにも頼もしそうなことがたくさん書かれているけれど、女君(おんなぎみ)は、
<明石を離れるのは心細い気がする>
と悩んでいらっしゃる。
正直なお気持ちを書いてお返事をなさった。
父親の入道(にゅうどう)は、
<いざ都へ送り出すとなると心配だ。かといってこんな田舎(いなか)に源氏の君のお子を()もれさせるわけにはいかない>
と苦しんでいる。
娘に大それた期待をして心配しつづけた人生だったけれど、これまでで一番苦しんでいたわ。