「実は明石の君も、この住吉大社にお参りするつもりで船でお越しになっていたようです。こちらの騒ぎに遠慮して、お参りを中止し、難波の岸の方に船を回されたと聞きました」
惟光はこっそりお耳に入れる。
<知らなかったとはいえ気の毒なことをした。そもそも明石の君と出会えたのは住吉の神様のおかげだというのに、そのお礼参りでつらい思いをさせてしまったとは>
源氏の君は同情なさる。
一行はこれから住吉大社を出発して、あちこちの名所を見物しながら都に戻る。途中で難波にも立ち寄ってお祓いをなさる。
「すぐ近くにいるのだから、この身を滅ぼしてでも会いにいきたいのだが」
源氏の君の口からついこぼれた嘆きを、惟光は聞き逃さなかった。携帯用の筆をお渡しする。
気が利く男だと感心しながら、源氏の君は手持ちの紙に明石の君への手紙をお書きになった。
「こんなところでお会いするとは私たちの縁の深さを感じますね。『身を尽くしても会いたい』と思っていた甲斐がありました」
手紙を読んだ明石の君は船から岸を見やる。源氏の君のお供たちが立派な馬に乗って通りすぎていく。ほんの短い手紙をいただいただけでも、女君はありがたくて涙がこぼれた。
「あなた様に正式に愛していただけるような身分ではありませんのに、私も『身を尽くしても』と思ってしまうのです。本気になってはいけないと分かっていたはずなのに」
と返事を送る。
日が暮れていく。
難波の入江に鶴の美しい鳴き声が響く。
源氏の君は明石の君にお会いになりたくてたまらない。しかし、たくさんのお供を連れて、周りから注目されながらの旅行では、ふらりと女君のところへ行くことなどできない。
「須磨や明石での生活もつらかったが、これもまた苦しい」
今の華やかなお立場では、かえって明石の君が遠くなったようにお感じになる。
道中の名所では誰もが楽しそうにしているけれど、源氏の君は明石の君のことしかお考えになれない。よいお客になってくれそうだと遊女たちが集まってきた。上級貴族のなかでも女好きな人たちは、思わず目を留めてしまわれる。
<こういう女たちと、同じものをおもしろいとか悲しいとか思えるだろうか。誰にでもしなだれかかる女など私は相手にしたくないが>
遊女たちの甲高い笑い声が上がった。源氏の君は眉をひそめていらっしゃる。
惟光はこっそりお耳に入れる。
<知らなかったとはいえ気の毒なことをした。そもそも明石の君と出会えたのは住吉の神様のおかげだというのに、そのお礼参りでつらい思いをさせてしまったとは>
源氏の君は同情なさる。
一行はこれから住吉大社を出発して、あちこちの名所を見物しながら都に戻る。途中で難波にも立ち寄ってお祓いをなさる。
「すぐ近くにいるのだから、この身を滅ぼしてでも会いにいきたいのだが」
源氏の君の口からついこぼれた嘆きを、惟光は聞き逃さなかった。携帯用の筆をお渡しする。
気が利く男だと感心しながら、源氏の君は手持ちの紙に明石の君への手紙をお書きになった。
「こんなところでお会いするとは私たちの縁の深さを感じますね。『身を尽くしても会いたい』と思っていた甲斐がありました」
手紙を読んだ明石の君は船から岸を見やる。源氏の君のお供たちが立派な馬に乗って通りすぎていく。ほんの短い手紙をいただいただけでも、女君はありがたくて涙がこぼれた。
「あなた様に正式に愛していただけるような身分ではありませんのに、私も『身を尽くしても』と思ってしまうのです。本気になってはいけないと分かっていたはずなのに」
と返事を送る。
日が暮れていく。
難波の入江に鶴の美しい鳴き声が響く。
源氏の君は明石の君にお会いになりたくてたまらない。しかし、たくさんのお供を連れて、周りから注目されながらの旅行では、ふらりと女君のところへ行くことなどできない。
「須磨や明石での生活もつらかったが、これもまた苦しい」
今の華やかなお立場では、かえって明石の君が遠くなったようにお感じになる。
道中の名所では誰もが楽しそうにしているけれど、源氏の君は明石の君のことしかお考えになれない。よいお客になってくれそうだと遊女たちが集まってきた。上級貴族のなかでも女好きな人たちは、思わず目を留めてしまわれる。
<こういう女たちと、同じものをおもしろいとか悲しいとか思えるだろうか。誰にでもしなだれかかる女など私は相手にしたくないが>
遊女たちの甲高い笑い声が上がった。源氏の君は眉をひそめていらっしゃる。



