野いちご源氏物語 一四 澪標(みおつくし)

 (むらさき)(うえ)父宮(ちちみや)である兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)は、源氏(げんじ)(きみ)が都を離れていらっしゃる間、世間の目を恐れて源氏の君にご冷淡(れいたん)だった。
 源氏の君はそのことを根に持っていて、以前のように親しくはなさらない。だいたいのことに寛容(かんよう)な源氏の君だけれど、兵部卿の宮のことだけはどうしてもお許しになれないらしい。入道(にゅうどう)の宮はこの宮の妹君(いもうとぎみ)なので、つらく思っていらっしゃる。

 さて、今の政治の実権(じっけん)は、源氏の君と太政(だいじょう)大臣(だいじん)が半分ずつお持ちになっている。
 太政大臣のご子息(しそく)で、源氏の君の親友の(ごん)中納言(ちゅうなごん)は、予定どおり姫君(ひめぎみ)(みかど)入内(じゅだい)させなさった。祖父の太政大臣が熱心にお世話なさって、理想的な儀式(ぎしき)が行われる。
 兵部卿の宮も姫君を入内させるつもりで大切に育てていらっしゃる。この姫君は(むらさき)(うえ)の腹違いの妹君(いもうとぎみ)だから、源氏の君が応援なさってもよいはず。しかし源氏の君は知らん顔を通される。
 
 源氏の君には明石(あかし)姫君(ひめぎみ)がいらっしゃるけれど、まだ生まれたばかりで入内できるのは十年以上先だった。何より帝は源氏の君のお子だから、ご自分の姫君と結婚させるわけにはいかない。
 お妃たちを通じた権力争いはもう始まろうとしている。源氏の君はこの争いに参加なさらないのか、それとも思いもよらない方法で参加なさるのか、さてどうなるのかしら。