こんなふうに源氏の君は紫の上のご機嫌取りでお忙しい。もちろん内大臣としてのお仕事もいろいろある。
花散里の君のことは気にかけているけれど、あちらから急ぎの用件を言ってくることもないのでご無沙汰が続いていた。
梅雨の時期で少しお暇ができたころ、源氏の君はやっとお訪ねになった。
経済的な支援はずっとなさっていて、姫君はそれで生活を成り立たせていたし、もともとのご性格もおっとりしているから、今どきの若い女性たちのように恨んだりすねたりなさらない。源氏の君にとっては安心できる女君だった。
ますます荒れた屋敷に、姫君は姉女御と寂しくお暮らしになっている。源氏の君はまず女御にご挨拶なさって、夜が更けてから姫君の部屋へ行かれた。
姫君は濡れ縁の近くまで出て月を眺めていらっしゃった。
月光にぼんやりと照らされた源氏の君は、気が引けるほどお美しい。ふつうの姫君ならあわてて部屋の中に引っこんでしまうだろうけれど、この姫君はそんなことをなさらない。おっとりと微笑んで源氏の君をお迎えになる。
水鶏が戸を叩くような声で鳴いた。
「先ほど水鶏が知らせてくれたので、縁側に出て戸を開けてみたら、美しい月が出ておりました。それでこんなところに座っていたのです。おかげであなたがお越しになったことにも気づけました」
穏やかな優しい声でおっしゃる。
<どの女性もそれぞれによいところがあって捨てがたい>
私の体はひとつなのにとお苦しい。
「水鶏が鳴いたからと言って誰にでも戸を開けてはいけませんよ。心配だな」
冗談になさったけれど、花散里の君はもちろんそんな女君ではない。一途に源氏の君が都へお戻りになる日を待っていらっしゃったから、源氏の君も大切にお思いになる。
「須磨へ出発なさる前、私に会いにきてくださったことを覚えておいでですか。あのときは本当に悲しゅうございました。これ以上つらいことはないと思いましたけれど、都にお戻りになってもつらさは変わりませんでした。まったくお越しくださらないのですもの」
お恨みになる口調もおっとりとして可憐だった。源氏の君はいつもどおり、あれはどこから出てくるのかしら、つぎつぎと優しい言葉でお慰めになる。
花散里の君のことは気にかけているけれど、あちらから急ぎの用件を言ってくることもないのでご無沙汰が続いていた。
梅雨の時期で少しお暇ができたころ、源氏の君はやっとお訪ねになった。
経済的な支援はずっとなさっていて、姫君はそれで生活を成り立たせていたし、もともとのご性格もおっとりしているから、今どきの若い女性たちのように恨んだりすねたりなさらない。源氏の君にとっては安心できる女君だった。
ますます荒れた屋敷に、姫君は姉女御と寂しくお暮らしになっている。源氏の君はまず女御にご挨拶なさって、夜が更けてから姫君の部屋へ行かれた。
姫君は濡れ縁の近くまで出て月を眺めていらっしゃった。
月光にぼんやりと照らされた源氏の君は、気が引けるほどお美しい。ふつうの姫君ならあわてて部屋の中に引っこんでしまうだろうけれど、この姫君はそんなことをなさらない。おっとりと微笑んで源氏の君をお迎えになる。
水鶏が戸を叩くような声で鳴いた。
「先ほど水鶏が知らせてくれたので、縁側に出て戸を開けてみたら、美しい月が出ておりました。それでこんなところに座っていたのです。おかげであなたがお越しになったことにも気づけました」
穏やかな優しい声でおっしゃる。
<どの女性もそれぞれによいところがあって捨てがたい>
私の体はひとつなのにとお苦しい。
「水鶏が鳴いたからと言って誰にでも戸を開けてはいけませんよ。心配だな」
冗談になさったけれど、花散里の君はもちろんそんな女君ではない。一途に源氏の君が都へお戻りになる日を待っていらっしゃったから、源氏の君も大切にお思いになる。
「須磨へ出発なさる前、私に会いにきてくださったことを覚えておいでですか。あのときは本当に悲しゅうございました。これ以上つらいことはないと思いましたけれど、都にお戻りになってもつらさは変わりませんでした。まったくお越しくださらないのですもの」
お恨みになる口調もおっとりとして可憐だった。源氏の君はいつもどおり、あれはどこから出てくるのかしら、つぎつぎと優しい言葉でお慰めになる。



