明石の入道はいつものように嬉し泣きしている。
こういうことがあると、<生きていた甲斐があった>と思うわよね。
明石でも当然お祝いをしていたけれど、やはり源氏の君から祝っていただけるのと、そうでないのとでは大違いだもの。
都から明石へ来た乳母は、明石の君に懐いていた。
想像していた以上に人柄がご立派でいらっしゃるから、お話し相手をすることで、田舎暮らしの寂しさをなぐさめている。
明石の君の女房たちはしっかりした人が多いけれど、入道の妻が伝手を頼って都から呼び寄せた人たちだから、かなり年をとっているの。
明石の君も、同年代の話し相手ができて、ご気分が晴れたでしょうね。
おもしろい世間話はもちろん、都での源氏の君のご様子や、世間からどれほど尊敬されているかなどを、いかにも若い女性同士らしく語り合う。
明石の君はずいぶんと表情が明るくなって、
<そのようなご立派な方のお子を産んで、気遣っていただける私は幸せ者だ>
とお思いになるようになっていた。
乳母は女君と一緒にお手紙を拝見して、
<こんなふうに源氏の君から大切にされる人生もあるのか。父親の身分で言えば、この方よりも私の方が上だというのに、私には不運がつきまとっている>
と思ってしまう。
でもお手紙に、
「乳母はしっかり働いていますか。きちんとした生まれ育ちの人です。都から明石へ行って心細いでしょうから、優しくしておやりなさい」
とあるのを見つけると、気にかけていただいていることがありがたくて、心もなぐさめられた。
明石の君はお返事で、
「おめでたいお祝いの日ですが、姫は寂しく過ごしています。私だけでは何もしてあげられません。こうしてたまにいただくお手紙を支えになんとか生きておりますが、それほど長生きできるとも思えませんので、姫の将来が心配でございます。どうかお見捨てにはなりませんように」
と真剣にお願いなさった。
源氏の君は届いたお返事を何度も何度もお読みになって、独り言をおっしゃっている。
紫の上はそのご様子をちらりとご覧になると、
「お心が明石へ漕ぎ出してしまわれた」
と小さなお声でつぶやいて思い沈まれる。
それに気づいた源氏の君は、
「また余計な気を回される。明石という場所を思い出していただけですよ。寂しいところで苦労したものだと独り言を言っただけなのに、あなたは思いもよらない悪い方に考えてしまうのだから」
と恨み言をおっしゃって、お手紙の包み紙だけをお見せになる。
宛名が見事な筆跡で書かれているの。
都の上流貴族の姫君でもこうは書けないというほどの風格があった。
紫の上は、
<元地方長官の娘とおっしゃっていたけれど、身分に似合わないほど優れた人なのだろう。そういう人だからこそ源氏の君はこれほど気にかけていらっしゃるのだ>
とお思いになる。
こういうことがあると、<生きていた甲斐があった>と思うわよね。
明石でも当然お祝いをしていたけれど、やはり源氏の君から祝っていただけるのと、そうでないのとでは大違いだもの。
都から明石へ来た乳母は、明石の君に懐いていた。
想像していた以上に人柄がご立派でいらっしゃるから、お話し相手をすることで、田舎暮らしの寂しさをなぐさめている。
明石の君の女房たちはしっかりした人が多いけれど、入道の妻が伝手を頼って都から呼び寄せた人たちだから、かなり年をとっているの。
明石の君も、同年代の話し相手ができて、ご気分が晴れたでしょうね。
おもしろい世間話はもちろん、都での源氏の君のご様子や、世間からどれほど尊敬されているかなどを、いかにも若い女性同士らしく語り合う。
明石の君はずいぶんと表情が明るくなって、
<そのようなご立派な方のお子を産んで、気遣っていただける私は幸せ者だ>
とお思いになるようになっていた。
乳母は女君と一緒にお手紙を拝見して、
<こんなふうに源氏の君から大切にされる人生もあるのか。父親の身分で言えば、この方よりも私の方が上だというのに、私には不運がつきまとっている>
と思ってしまう。
でもお手紙に、
「乳母はしっかり働いていますか。きちんとした生まれ育ちの人です。都から明石へ行って心細いでしょうから、優しくしておやりなさい」
とあるのを見つけると、気にかけていただいていることがありがたくて、心もなぐさめられた。
明石の君はお返事で、
「おめでたいお祝いの日ですが、姫は寂しく過ごしています。私だけでは何もしてあげられません。こうしてたまにいただくお手紙を支えになんとか生きておりますが、それほど長生きできるとも思えませんので、姫の将来が心配でございます。どうかお見捨てにはなりませんように」
と真剣にお願いなさった。
源氏の君は届いたお返事を何度も何度もお読みになって、独り言をおっしゃっている。
紫の上はそのご様子をちらりとご覧になると、
「お心が明石へ漕ぎ出してしまわれた」
と小さなお声でつぶやいて思い沈まれる。
それに気づいた源氏の君は、
「また余計な気を回される。明石という場所を思い出していただけですよ。寂しいところで苦労したものだと独り言を言っただけなのに、あなたは思いもよらない悪い方に考えてしまうのだから」
と恨み言をおっしゃって、お手紙の包み紙だけをお見せになる。
宛名が見事な筆跡で書かれているの。
都の上流貴族の姫君でもこうは書けないというほどの風格があった。
紫の上は、
<元地方長官の娘とおっしゃっていたけれど、身分に似合わないほど優れた人なのだろう。そういう人だからこそ源氏の君はこれほど気にかけていらっしゃるのだ>
とお思いになる。



