野いちご源氏物語 一三 明石(あかし)

明石(あかし)の浜辺は美しいところだった。
須磨(すま)よりも人気(ひとけ)が多いことだけは、源氏(げんじ)(きみ)のご希望と違ったけれど。

船から降りて乗り物にお乗り換えなさるころには、もう日が高くなってきていた。
明石の入道(にゅうどう)は源氏の君のお姿をちらりと拝見して、そのお美しさに寿命(じゅみょう)が延びるような気がした。
住吉(すみよし)の神様のおかげだ>
と手を合わせている。

入道は明石のあちこちに土地を持っているの。
海辺には(はま)(やかた)、海から離れた小高いところには(おか)(やかた)があった。
その他にも仏教(ぶっきょう)修行(しゅぎょう)をするための建物や、財産をしまっておく倉庫などが、思い思いに工夫してつくってある。
入道 一家(いっか)は岡の館の方に住んでいるから、源氏の君は浜の館で気楽にお暮らしになることになった。
源氏の君のような高貴(こうき)な方がご自分のところへいらっしゃったのだもの、懸命(けんめい)にお世話申し上げていたわ。

須磨のお住まいは、謹慎(きんしん)生活にふさわしいようにわざとこじんまりお造らせになったのだけれど、この浜の館はとても豪華なの。
建物もお庭も家具も、都の上流貴族のお屋敷にだって負けないくらい。
これでもかというほど美しさを追求している点では、むしろ勝っているかもしれないわ。