年が明けた。
帝の目のご病気はあいかわらず重い。
世間では、
「お目が見えなくては、帝の位を東宮様にお譲りになる日も近いだろう」
と噂されていたわ。
帝には承香殿の女御様との間に二歳の皇子がいらっしゃる。
この皇子が次の東宮におなりになるのでしょうね。
帝は、東宮様が帝になられたときに後見する人がいないことをご心配なさっていた。
今の東宮様は入道の宮様、つまり藤壺の女御様がお生みになった皇子だから、ご親戚は皇族ばかりで、後見役になれる方がいらっしゃらないの。
<やはり、新しい帝をお支えして政治をする人として、源氏の君が必要だ。都から追い出したままにしておくのはあまりにもったいない>
と帝はお考えになった。
七月、とうとう皇太后様のご反対を振りきって、
「源氏の君を許す。都に戻ってまいれ」
というご命令をお出しになったわ。
明石でこのご命令をお聞きになった源氏の君は、
<ありがたくうれしいご命令だが、あまりに急なことで、まだ心の準備ができていない。すぐに明石を離れることになるのか>
と動揺していらっしゃる。
明石の入道は、
<ついに源氏の君が都にお戻りになってしまう。しかし、間違ってもお引きとめなどしてはいけない。源氏の君が都で政治の中心に立たれてこそ、娘が高い地位に就く可能性が出てくるのだ。そうなれば昔見た夢も叶う日が来るかもしれぬ>
と、将来を期待している。
それからは源氏の君は毎夜、岡の館にお通いになる。
実は、帝のご命令が出る少し前から、明石の君はご懐妊していらっしゃったの。
お別れが近づいているとお思いになるからか、源氏の君はこれまで以上に女君が愛しくなってしまわれる。
<今から少しずつ離れていった方が、別れのつらさを軽くできるだろうに。苦しむ方へ苦しむ方へと衝き動かされてしまうのはなぜだ>
とお悩みになる。
もちろん女君は源氏の君以上に悩んでいらっしゃった。
源氏の君は都をお離れになったとき、
<また都に戻る日もあるだろう>
と信じてご出発なさった。
でも、晴れて都へ戻られる今回は、
<もう明石には戻ることはない。これきりになってしまうだろう>
と悲しくお思いになる。
源氏の君の家来たちも、都に戻ることをそれぞれよろこんでいた。
ご出発が近づいたころ、都からお迎えの人たちがやって来たわ。
浜の館はこれまでにないほどにぎやかで、家来たちが忙しそうに働いている。
いよいよ都に戻れることがうれしくてたまらないのね。
明石の入道は、いざとなるとやはり、源氏の君が明石を去っていかれることが悲しくて、涙に暮れていた。
源氏の君はというと、明石の君を思ってぼんやりと物思いにふけっておられる。
家来たちは、
「あいかわらず先の見えない恋ばかり好まれる方でいらっしゃる」
「はじめはそれほど本気でもないようなご様子だったが」
「お別れが近づいているから、知らず知らず深みにはまっていかれるのだ。こんなに毎晩ご訪問なさっては、女君も余計つらくなってしまわれるだろうに」
「そもそも女君は良清の恋の相手ではなかったのか」
「良清は相手にもされなかったのだよ。たしか北山のお寺でもそんなことを言っていた」
とひそひそと話している。
うっかり聞いてしまった良清は、気まずく恥ずかしく思っていたようね。
帝の目のご病気はあいかわらず重い。
世間では、
「お目が見えなくては、帝の位を東宮様にお譲りになる日も近いだろう」
と噂されていたわ。
帝には承香殿の女御様との間に二歳の皇子がいらっしゃる。
この皇子が次の東宮におなりになるのでしょうね。
帝は、東宮様が帝になられたときに後見する人がいないことをご心配なさっていた。
今の東宮様は入道の宮様、つまり藤壺の女御様がお生みになった皇子だから、ご親戚は皇族ばかりで、後見役になれる方がいらっしゃらないの。
<やはり、新しい帝をお支えして政治をする人として、源氏の君が必要だ。都から追い出したままにしておくのはあまりにもったいない>
と帝はお考えになった。
七月、とうとう皇太后様のご反対を振りきって、
「源氏の君を許す。都に戻ってまいれ」
というご命令をお出しになったわ。
明石でこのご命令をお聞きになった源氏の君は、
<ありがたくうれしいご命令だが、あまりに急なことで、まだ心の準備ができていない。すぐに明石を離れることになるのか>
と動揺していらっしゃる。
明石の入道は、
<ついに源氏の君が都にお戻りになってしまう。しかし、間違ってもお引きとめなどしてはいけない。源氏の君が都で政治の中心に立たれてこそ、娘が高い地位に就く可能性が出てくるのだ。そうなれば昔見た夢も叶う日が来るかもしれぬ>
と、将来を期待している。
それからは源氏の君は毎夜、岡の館にお通いになる。
実は、帝のご命令が出る少し前から、明石の君はご懐妊していらっしゃったの。
お別れが近づいているとお思いになるからか、源氏の君はこれまで以上に女君が愛しくなってしまわれる。
<今から少しずつ離れていった方が、別れのつらさを軽くできるだろうに。苦しむ方へ苦しむ方へと衝き動かされてしまうのはなぜだ>
とお悩みになる。
もちろん女君は源氏の君以上に悩んでいらっしゃった。
源氏の君は都をお離れになったとき、
<また都に戻る日もあるだろう>
と信じてご出発なさった。
でも、晴れて都へ戻られる今回は、
<もう明石には戻ることはない。これきりになってしまうだろう>
と悲しくお思いになる。
源氏の君の家来たちも、都に戻ることをそれぞれよろこんでいた。
ご出発が近づいたころ、都からお迎えの人たちがやって来たわ。
浜の館はこれまでにないほどにぎやかで、家来たちが忙しそうに働いている。
いよいよ都に戻れることがうれしくてたまらないのね。
明石の入道は、いざとなるとやはり、源氏の君が明石を去っていかれることが悲しくて、涙に暮れていた。
源氏の君はというと、明石の君を思ってぼんやりと物思いにふけっておられる。
家来たちは、
「あいかわらず先の見えない恋ばかり好まれる方でいらっしゃる」
「はじめはそれほど本気でもないようなご様子だったが」
「お別れが近づいているから、知らず知らず深みにはまっていかれるのだ。こんなに毎晩ご訪問なさっては、女君も余計つらくなってしまわれるだろうに」
「そもそも女君は良清の恋の相手ではなかったのか」
「良清は相手にもされなかったのだよ。たしか北山のお寺でもそんなことを言っていた」
とひそひそと話している。
うっかり聞いてしまった良清は、気まずく恥ずかしく思っていたようね。



