野いちご源氏物語 一三 明石(あかし)

娘は、といつまでもお呼びするのは申し訳ないわね。
源氏(げんじ)(きみ)の恋人になられたのだから、「明石(あかし)(きみ)」とお呼びいたしましょう。
明石の君は、源氏の君のご態度が予想どおりになってしまって、
<もはや海に身を投げて死のうか>
と思いつめていらっしゃる。

父君(ちちぎみ)母君(ははぎみ)ももう先の長いご年齢ではないというのに、そんな両親に頼りきって、ただなんとなく毎日を過ごしていたころはよかった。幸運が訪れると信じていたわけではないけれど、とくに悩みもなく穏やかだった。恋愛がこれほど悩み苦しむものだとは、想像していた以上だ>
と悲しんでいるけれど、源氏の君にはそれをお見せにならない。
穏やかで感じのよい態度をとりつづけていらっしゃるの。

源氏の君は、
<いじらしい人だ。たしかに愛情は深まっていくけれど、都で私の帰りを待っている(むらさき)(うえ)を不安にさせるのは心苦しい>
と、ほとんどの夜を(はま)(やかた)でおひとりで過ごされる。
紫の上に少しでも安心していただこうと、絵を描いて二条(にじょう)(いん)にお送りになるの。
絵のとなりにはそのとき感じたことをお書きになって、
「あなたも思いついたことなどを書きこんで、私のところへ送り返してください」
とお願いなさった。
感動的なやりとりが行われていたわ。

紫の上も、源氏の君を思い出して寂しくなったときなどに、絵をお描きになるようになった。
お身の回りのことを絵日記のように描いていらっしゃる。
そんなふうになぐさめあっておられるおふたりは、これからどうなっていかれるのかしら。