野いちご源氏物語 一三 明石(あかし)

源氏(げんじ)(きみ)は、
(むらさき)(うえ)がこのことを風の(うわさ)で聞いてしまったらどうなるだろう。冷静に身分の差を考えてくれれば、たいした恋愛ではないと分かるはずだ。しかし、妙に深刻に受け止めて嫌われてしまったら困る>
と悩んでいらっしゃる。
<うっかりばれてしまったら、心苦しい上に気恥ずかしくもある>
とお思いになるのは、それだけ紫の上を大切にしておられるからなのでしょうけれど。

入道(にゅうどう)の娘はたしかに上品な人だったけれど、やはり紫の上にはかなわない>
と、あらためて紫の上のすばらしさにお気づきになって、いつも以上にあれこれと気遣ったお手紙をお書きになる。
お手紙の最後に、正直に事実をお書きそえになった。
「これまであなたには私の浮気でさんざん嫌な思いをさせてしまいましたが、最近また、ちょっとしたことがあったのです。聞かれてもいないのに自分から白状(はくじょう)したのは、あなたのことを誰よりも大切に思っているからです。それだけは信じてください。本当にたいしたことではないのです。かえってあなたのすばらしさを思い知って、泣いてしまっているくらいですよ」

紫の上からのお返事は、とくにお怒りでもなくおっとりと書かれていて、最後に、
「たしかにそういうことも何度かありましたね。都をお離れになってからは、あなたのご誠意を信じて疑わずにおりましたけれど」
とあった。
優しい書き方で少しだけお責めになっているのがいじらしくて、源氏の君はお手紙を手放せずにいらっしゃる。
紫の上のお言葉が胸に刺さって、それからしばらくは(おか)(やかた)を訪問なさらなかったわ。