野いちご源氏物語 一三 明石(あかし)

あのとんでもない大嵐は三月のことだったけれど、それからというもの、都では不吉(ふきつ)なことが続いていたの。
まず、大嵐が収まる直前、(みかど)は亡き上皇(じょうこう)様の夢をご覧になった。
お庭にお立ちになって、たいそうお怒りのご様子で帝をにらみつけておられる。
帝が恐縮していると、
「あれほど源氏(げんじ)(きみ)を大切にせよと遺言(ゆいごん)したではないか」
とご不満をおっしゃった。

覚えているかしら。
源氏の君も同じ夜、上皇様の夢をご覧になったのよね。
上皇様は、
「私はこれから都へ行く。ここまで来たついでに、帝に急ぎ申し上げなければならぬことがあるからな」
とおっしゃって源氏の君の夢から姿をお消しになった。
きっとあのあと内裏(だいり)に飛んでいかれて、帝の夢にお出になったのよ。

帝は、
<上皇様はおそろしくお怒りだった。ご遺言を破るなど、やはりしてはいけなかったのだ>
とお思いになって、皇太后(こうたいごう)様に夢の内容をご報告なさったわ。
でも皇太后様は、
「何をおっしゃいます。嵐が続いてお心が不安定なのでございましょう。それが夢に表れただけのことでございますよ。どっしり構えておられませ。帝ともあろうお方が、そのようにあわてるお姿をお見せになってはいけません」
と軽くあしらってしまわれる。

夢のなかで、帝は上皇様と目がお合いになった。
上皇様はおそろしい目で帝の目をにらみつけておられたの。
そのせいか、帝は目のご病気になってしまわれた。
とてもお苦しみになって、ご回復のお祈りなどが行われる。
そんななか、右大臣(うだいじん)様、いえ、そのときは太政(だいじょう)大臣(だいじん)にご出世(しゅっせ)なさっていた皇太后(こうたいごう)さまの父君(ちちぎみ)が、おなくなりになったの。
太政大臣様はご高齢(こうれい)ではあったけれど、つづいて皇太后様ご自身も原因不明のご病気になられた。

<さすがにこれは異常だ>
とお思いになった帝は、皇太后様に、
「源氏の君に無実(むじつ)(つみ)を着せ都から追放したせいで、上皇様がお怒りなのです。すぐに源氏の君を都に呼び戻して、(もと)(くらい)に復帰させましょう」
と何度もおっしゃる。

皇太后様は、
「そんなことをなさっては世間が批判いたします。帝はご決定を軽々しく変更なさってはならないのですよ。源氏の君は罪の自覚があって自分から都を離れたのです。そういう場合は三年以内は都に戻してはならないと、法律で決められておりますでしょう。あの帝は法律を破ったと、百年先まで言い伝えられてしまいますよ」
と、厳しく反対なさる。
帝はお悩みになったまま月日が経ち、帝と皇太后様のご病気は重くなる一方だったわ。