野いちご源氏物語 一三 明石(あかし)

 雨風と(かみなり)はあれから何日も収まらない。
 さすがの源氏の君もお心が弱っていく。
<ここにいてよいものだろうか。都に戻りたいが、まだ(みかど)のお許しは出ていない。今戻れば朝廷(ちょうてい)でますます笑い者になる。いっそ山奥に入って死んでしまおうか。しかし、暴風雨(ぼうふうう)怖気(おじけ)づいて死を選んだなどと(うわさ)されるのは嫌だ>
 悪夢(あくむ)も続いていた。源氏(げんじ)(きみ)を気に入った海底(かいてい)竜王(りゅうおう)が、使者(ししゃ)を出して源氏(げんじ)(きみ)を自分のところへ連れてこさせようとしている。

 都に残してきた女君たちのこともご心配だった。
<このまま死んで、もう二度と恋しい人たちに会えないのだろうか>
 とお心細い。せめて都から手紙が届けばよいのだけれど、こんな(あらし)の中をやって来る使者はいない。
 そうお思いになった矢先(やさき)、なんと二条(にじょう)(いん)(むらさき)(うえ)の使者が、命がけでやって来た。びしょ()れでぼろぼろになっている。人かどうかも分からないような姿に、源氏の君は思わず同情なさった。

 紫の上からの手紙には、
「ご無事でいらっしゃいますか。都でも激しい雨風が続いておりますから、海に近い須磨(すま)はどれほどだろうかと心配しております」
 とあった。使者はがたがた震えながら申し上げる。
「この嵐は神様のお怒りのせいだと都の人は(うわさ)しております。お怒りを(しず)めるために仏教(ぶっきょう)儀式(ぎしき)を行うそうでございますが、どこの道路もめちゃくちゃで、貴族の方たちは内裏(だいり)へお上がりになれません。政治が止まってしまっているようでございます。ただ、こちらのように地面に穴を開けるほどの(ひょう)までは降っておりません」
 あまりに恐ろしがっている様子に、源氏の君はますます心細くなってしまわれる。